相続税の納税資金がなければ「法人」に土地を売却
前回の続きです。建物は既述の方法で問題なく売却できたとして、土地はどうしたらいいでしょうか。
もし相続人が相続税の納税資金に困るようなら、法人に売却してしまいましょう。そして、その売却代金を相続税の納税資金にあてるのです。相続税の申告書の提出期限後3年以内の売却であれば、譲渡税が優遇される措置があります。
では、時計をもう少し先に進めて、被相続人となる人が亡くなり、相続を開始した後のことを考えてみましょう。
相続人(つまり、配偶者や子)が相続税を払う現金を持っていない場合、「延納」ということになります。本来一括で納めるべき相続税を分割で支払う「延納」は、国に借金しているのと同じことです。延納にかかる金利である利子税は2〜4%。銀行の金利が2〜3%であることを考えると、決して得ではないことがわかります。しかもその利子税は何の経費にもなりません。「だったら、銀行から借りて一括払いにすればいい」と答えを急いではいけません。こういう時こそ土地を売って、納税資金を確保するのです。
相続人は相続した土地を法人に売ります。法人にはお金がありませんから銀行から借りることになりますが、「土地を買うため」の借金なので、その利息は経費になります。これで国に払うべき延納金利については、銀行からの借り入れという形で経費化することができるのです。
一方、土地の売却代金は相続人の手元に入ります。相続人はこれを原資として、相続税を払えばいいのです。そうすれば、延納だ、借金だといった悩みは解消されるはずです。
しかし、相続人は法人に土地を売却した際に、今度は譲渡税の課税を受けることになってしまいます。
従って、この一連のことは相続税の申告期限から3年以内にやる必要があります。なぜかというと、3年以内なら法人への土地譲渡について課される譲渡税の計算に「相続税額の取得費加算」という特例が使えるからです。
相続人が法人に土地を売却する時、土地の値段は「時価」です。土地には減価償却の考え方はありませんから、帳簿価格は使えません。第一、大昔に買った土地では、1坪50円など今とはかけ離れた金銭価値で取引されていて、帳簿価格自体が意味をなしません。
土地の時価というのは、この場合、第三者に売る場合の価格です。当然のことながら何千万円、何億円の単位になってきます。
その売却益(譲渡益)に応じて譲渡税がかかります。譲渡税額は、売却代金から取得費と諸経費を引いた売却益に、譲渡税率をかけて求めます。譲渡税率には、5年超の長期所有(20%)と5年以下の短期所有(39%)の2つがありますが、代々引き継いでいる土地なのでここでは、長期所有で考えてみます。
4900万円で買った土地が1億円で売れたとします。諸々の経費が100万円かかりました。すると、売却益は5000万円です。よって、譲渡税は1000万円(売却益5000万円×税率20%)になります。
「相続税額の取得費加算」を使えば、控除額は大きい
さて、この譲渡税ですが、相続税の申告期限から3年以内であれば、先にあげた「相続税額の取得費加算」の特例で減額できます。次のような条件でシミュレーションしてみます。
被相続人となる人の死亡にともない相続人が取得した財産の内訳は、土地X4000万円、土地Y5000万円、現金1000万円でした。合計で1億円です。これらにかかる相続税額を5000万円とします(現実にはこんなに高額にはなりませんが、高めに設定しておきます)。
この相続財産のうち土地Xを売却し、売却価格が4500万円だったとします。取得費は被相続人が実際に取得した額を引き継ぐことになりますが、通常大昔のことなのでいくらかわかりません。わからない場合は、概算取得費といって売却金額の5%とすることが認められていますので、土地Xの取得費は225万円(売却金額4500万円×5%)です。
さて、取得費加算の特例で控除される額がどれくらいになるかです。
控除額を求める計算式は、「相続税額×全相続財産のうちの土地が占める割合」です。全相続財産のうち土地XとYが占める割合は90%。従って、4500万円が譲渡益から減算されることになります。結果的に譲渡税がどうなるかは下記の計算式を見てください。譲渡益がマイナスの値となり、譲渡税はかからないのです。
[計算式]取得費加算の特例
1.取得した相続財産の内訳
土地X 40,000,000 円
土地Y 50,000,000 円
現金 10,000,000 円
合計 100,000,000 円
2.相続税額 50,000,000 円
3.土地Xを45,000,000 円で売却した場合
①収入金額 45,000,000 円
②取得費 ① ×5%= 2,250,000 円
③相続税額加算 45,000,000 円
④譲渡経費 1,400,000 円
⑤譲渡所得 ①−②−③−④= 0(▲ 3,650,000 円)
(譲渡益)
したがって、譲渡益なし
実際に売却したのは土地Xだけですが、計算上は土地Yも含めた土地の合計を対象にしていいので、分子が大きくなり控除額が大きくなります。優遇されていることがおわかりいただけたでしょう。繰り返しになりますが、この特例は申告期限から3年以内に行わなければならないということを、忘れないようにしてください。