「私の名前だけ、呼ばれません…」入居者の家族で賑わう“老人ホームの日曜日のロビー”で俯く資産3億円・76歳男性。孫を“選別”した高すぎる代償【FPが解説】

「私の名前だけ、呼ばれません…」入居者の家族で賑わう“老人ホームの日曜日のロビー”で俯く資産3億円・76歳男性。孫を“選別”した高すぎる代償【FPが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

多くの人が「相続対策」と聞くと、いかに税金を減らすか、いかに多くの資産を子や孫に遺すかというテクニックに目を奪われがちです。教育資金贈与や遺言書の作成など、制度を活用して完璧な対策を立てたつもりでも、遺された家族の「感情」を置き去りにした遺産分割は、高確率で身内同士の争いを引き起こすことも。本記事では、波多FP事務所の波多勇気氏が、佐伯正孝さん(仮名)の事例から「生前整理の3大原則」について解説します。※紹介する事例は、相談者より許可を得て、プライバシー保護の観点から相談者の個人情報および相談内容を一部変更して記事化しています。

資産3億円の使い道を変えたあと

家族会議から2ヵ月ほど経ったころ、筆者は再び佐伯さんの入居する老人ホームを訪ねました。遺言書の内容と、今後の贈与方針を最終確認するためです。公正証書遺言を作成する前に、佐伯さん本人の意思が変わっていないか、家族への説明に無理がないかをもう一度確認する必要がありました。

 

「長女のところの下の子が、資格を取りたいそうです。『じいちゃん、こういうのを考えている』と、連絡をくれたんです。前の私なら、そんなものに金を出してどうするんだといっていたかもしれません」

 

佐伯さんは苦笑しました。

 

「でも、あの子にはあの子の道がありますね」

 

面談の終わり、ロビーでは今日も別の入居者の家族が面会に訪れていました。職員の声が響きます。「〇〇様、ご家族がお見えです」。以前の佐伯さんなら、その声を聞くと寂しそうに顔を伏せていました。けれど、その日は違いました。

 

「来週、長女が電話をくれるそうです。孫も横にいるかもしれません。まだ、わかりませんが」と少し照れたようにいいます。

 

完全に閉じていた扉が、少しだけ開いたようにみえました。

 

相続対策というと、多くの人は税金を減らすことを考えます。教育資金贈与、暦年贈与、生命保険、遺言書、不動産の活用。どれも大切な選択肢です。しかし、家族へのお金の渡し方を間違えると、節税に成功しても、関係性で大きな損失を抱えることがあります。

 

大切なのは、誰にいくら渡すかだけではありません。なぜ渡すのか。ほかの家族にはどうみえるのか。受け取った人が、あとで責められない形になっているか。そして、自分自身の老後資金を削ってまで、子や孫に渡そうとしていないか。

 

佐伯さんの失敗は、愛情を、お金の多寡で示しすぎたことです。しかし救いがあったとすれば、まだ自分の意思を自分の言葉で伝えられるうちに、その渡し方を見直せたことでした。お金の整理は、家族関係を完全に修復する魔法ではありませんが、こじれた感情をこれ以上悪化させないための、最後の手当てにはなります。

 

資産3億円をどう残すかよりも、最後に誰が面会に来てくれるのか。佐伯さんがようやく向き合ったのは、相続税の数字ではなく、その問いだったのです。

 

〈参考〉

国税庁「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4510.htm

国税庁「No.4405 贈与税がかからない場合」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4405.htm

政府広報オンライン「知っておきたい相続の基本」

https://www.gov-online.go.jp/article/202403/entry-5848.html

法務省「相続に関するルールが大きく変わります」

https://www.moj.go.jp/content/001285382.pdf

 

 

波多 勇気

波多FP事務所 代表

ファイナンシャルプランナー

 

 

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※プライバシーのため、実際の事例内容を一部改変しています。

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