容量の限界、1社依存…「衛星通信」の弱点
ただし通信回線の容量としては海底ケーブルとの格差は依然として桁違いだ。
世界中を結ぶ約500系統の海底ケーブルが系統あたり数百Tbpsを運ぶのに対し、Starlinkの地球全体で共有される全ネットワーク容量は600Tbps超にとどまり、コスト効率でも及ばない。海底ケーブルが大量輸送のコンテナ船だとすれば、低軌道衛星はヘリコプターのような機動輸送だ。
衛星通信の役割は、物理的・経済的に敷設困難な地域のラストマイル代替か、地上回線寸断時の予備回線にとどまる。海底ケーブルという線的カバレッジと衛星コンステレーションという面的カバレッジが互いの代替性を確保することこそが、デジタル供給網の強靭さを左右する。
しかしこの迂回路にも課題がある。チョークポイントを宇宙から飛び越えたはずの衛星通信が、Starlinkという単一事業者への依存という別種の集中リスクを抱え込んでいる。各国は対抗策として独自のコンステレーション構築を急ぐ。
EUのIRIS※2、中国の千帆星座。軌道資源の有限性から「宇宙のバルカナイゼーション」が進行し、デジタルインフラの地政学は地上から軌道上へと拡張された。
※2 Starlinkの通信サービスは、ADSLのように上下の帯域が非対称である。TeleGeographyは下り帯域と上り帯域の割合を455Tbps対50Tbpsとおき、そのうえで効率はその10%と試算している。
自前ロケットで圧倒的優位に…「SpaceX」独り勝ちの背景
Starlinkは、2026年2月時点で1000万人超の加入者を抱える。2025年時点の年間収益は約118億ドルと推計される。
一方で、この衛星コンステレーションを維持するには、年間1800〜2400基の衛星を打ち上げ続けなければならない。衛星の製造費と打ち上げ費用を合わせると、設備投資は年間40億ドル規模に達するとみられている。
SpaceXがStarlinkを維持できるのは、打上げ手段(Falcon9、Starship)を自社で持ち、打上げコストを外部の5分の1以下に抑えられるからだ。これは垂直統合なしには成立しない経済モデルであり、参入障壁は資本力だけでなく、打ち上げ手段そのものにある。
この参入障壁が競合を阻んでいる。Amazon Leoの2026年4月時点での軌道上の衛星台数は約241基でStarlinkの約40分の1にとどまる。Amazon Leoは米連邦通信委員会(FCC)から認可を受けた衛星配備スケジュールを期限通り守れなくなる見込みで、期限延長の申請を余儀なくされた。
2020年に英国政府とインドのBharti Globalが共同救済し、2023年にフランスEutelsatと合併したEutelsat OneWebも2026年4月時点で654基止まりだ。
打ち上げ手段を自社で持たない事業者は、衛星を軌道に送るたびに、SpaceXを含む外部の打ち上げ事業者に依存せざるを得ない。参入障壁が資本ではなく打ち上げ手段にあることを、競合の苦戦が裏付けている。
