「私が先に倒れたら終わりです」…老後に迫る“親亡き後”の現実
最近になって、美和さんの不安はさらに強くなっています。理由は自分自身の年齢です。
「弟のことを心配しているけれど、私も65歳なんです」
これまでは月に数回、実家へ行って様子を見ていました。体調が悪ければ病院へ連れて行き、役所から届いた書類があれば説明する。家電が壊れれば買い替えも手伝いました。
しかし、自分が病気になったらどうなるのでしょうか。
「私が先に倒れたら終わりです」
その言葉は決して大げさではありませんでした。
健一さんには配偶者も子どももいません。親族との付き合いもほとんどありません。
もし実家の維持が難しくなったら。もし介護が必要になったら。もし預貯金が尽きたら。考え始めると、不安は尽きません。
厚生労働省は、ひきこもり状態にある人やその家族に対する相談支援事業を進めています。また、多くの自治体では相談窓口や地域支援機関を設置し、就労支援や生活支援につなげる取り組みを行っています。
美和さんは昨年、初めて地域の相談窓口を訪れました。
「もっと早く相談すればよかったと思いました」
相談員からは、今すぐ就労を目指すだけでなく、まずは社会との接点を少しずつ増やすことが大切だと説明を受けました。
その後、健一さんは月に一度だけ地域の相談機関へ足を運ぶようになりました。劇的な変化ではなく、仕事も見つかっていませんが、美和さんにとっては大きな一歩でした。
「弟が変わるかどうかは分からない。でも、家族だけで抱え込むのは限界だったんです」
美和さんはいまも不安を抱えていますが、以前とは少し違います。
「全部を私が何とかしなきゃいけないと思っていました。でも、それでは共倒れになります」
老後の不安は、お金や健康だけにとどまりません。家族を支える役割を担っている人にとっては、自分自身の将来と家族の将来を同時に考えなければならず、その重圧は決して小さくないのです。
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