「親がいなくなれば変わると」…65歳女性が抱え続けた不安
美和さん(仮名・65歳)は、夫と二人で暮らしています。夫婦の年金収入は月20万円ほど。住宅ローンは完済していますが、決して余裕のある暮らしではありません。
美和さんには8歳年下の弟・健一さん(仮名・57歳)がいます。
健一さんは若い頃に就職したものの長続きせず、その後はアルバイトを転々としていました。40代に入った頃から仕事をしなくなり、実家で両親と暮らすようになります。
「そのうち働くと思う」
母はそう言い続けていました。しかし状況は変わりませんでした。
健一さんは外出する機会も少なく、近所のコンビニへ行く以外はほとんど自室で過ごしていました。友人との交流もなく、地域活動への参加もありません。
美和さんも何度か話し合おうとしました。
「何か仕事を探してみたら?」
「今さら無理だよ」
そんなやり取りを繰り返すうちに、話題そのものがタブーになっていきました。
転機が訪れたのは、父が亡くなったときでした。
当時、健一さんは50代前半。美和さんは「親がいなくなれば現実を見て変わるかもしれない」と考えていましたが、母が残した年金や預貯金で生活は続きました。
さらに数年後、母も亡くなります。実家とわずかな預貯金は健一さんに相続されました。
「これでしばらくは大丈夫だろう」
当時の美和さんはそう思いましたが、それから5年が過ぎても状況は変わりませんでした。
実家で一人暮らしを続ける健一さんは、仕事を探す様子もなく、地域との交流もありません。
ある日、美和さんが通帳を確認すると、相続した預貯金は大きく減っていました。
「このままじゃ、お金がなくなるよ」
そう伝えても、健一さんは黙ったままでした。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上人口は今後も増加が見込まれています。そんななか、親亡き後の生活に不安を抱える中高年の未就労者やその家族の問題は、いわゆる「8050問題」として社会的な課題になっています。
美和さんも、ニュースの中の話だと思っていた問題が、自分の家族の現実になっていることを痛感していました。
