インタビューによる参入市場の特定と事業化への確信
株式会社ニコン/株式会社クロスセクター
【企業概要】
株式会社ニコンは光利用技術と精密技術をコア技術とし、カメラ、レンズなどの映像事業に加え、半導体露光装置やFPD露光装置などの精機事業、顕微鏡などのヘルスケア事業などを展開する企業。株式会社クロスセクターは2025年3月に同社から初のスピンオフ企業として設立された。
【お話をうかがった方】
株式会社ニコン 執行役員 経営戦略本部 副本部長 金澤 真様
株式会社クロスセクター 代表取締役 宮脇 崇様
※掲載されている部署名、肩書、組織名および組織体制は、すべて取材当時のものです。
クロスセクターが提供する「Frame Finder」は、ニコンの光学部品計測技術を応用し、建築現場の鉄骨組立工程において従来2人以上の熟練技能者が必要だった鉄骨位置測定作業を、センサによる自動測定とクラウド記録で大幅に効率化するサービスです。従来は鉄骨1本あたり15分かかっていた測定をわずか15秒で完了でき、手作業による計測データの転記ミスやデータ改かい竄ざんを防止します。
しかし、このサービスが生まれるまでには、ニコンにとって完全な未知の領域への挑戦がありました。
実は初めから「建設業界」の課題に絞って新規事業を検討していったわけではありません。自社の持つ光利用技術と精密技術を、これまで接点のなかった業界の課題を解決するために活用できないかと考え、どの業界がよいかということをそもそも調べなければなりませんでした。
最終的にターゲットは建設業界に絞りましたが、建設業界のことは何も知りません。我々は光利用技術のプロですが、建設業界のビジネスモデルや商習慣、現場のリアルなニーズなど、一次情報が決定的に不足していました。
以前は関連業界の展示会に自ら足を運んで直接お目にかかって情報収集していましたが、丸1日かけても深く話せるのは平均3人ほどでした。これでは十分な市場理解は得られません。「どうすれば業界のリアルな声にたどり着けるのか」と考え、直接専門家にインタビューできるシステムがあればいいと思っていたときに、まさにそのもののサービスとして弊社サービス・ビザスクを知り、利用を決めました。未知の業界について、これほど多くの当事者から直接話を聞ける手段はほかにはなかったと思います。
まず、自社の技術を活かせる可能性がある業界のリサーチとして、建設のほかにもエネルギーや物流、小売など、さまざまな業界の専門家の方、10人以上にインタビューを行いました。そのなかで建設業界の課題が最も深いと確信し、次はその業界に特化してヒアリングを重ねました。特に意識したのは、経営層から現場の係長クラスまで、あえて異なる役職の方に話を聞くことです。すると、同じ業界でも立場によって課題の捉え方がまったく違うことが分かりました。俯瞰的に見ている方と、目の前の課題に集中している方とでは、出てくる言葉が違いました。
当初は業界用語も分からず、得られる情報は「点」でした。しかし、インタビューを重ねるうちに知識が蓄積され、ある瞬間からそれらが「線」としてつながっていく感覚がありました。顧客の要望に対して「なぜですか?」と一歩踏み込んで質問できるようになったのも、この頃です。さらにインタビューと並行して20~30人規模のアンケートも実施し、個人の意見に偏らないよう情報の精度を高めていきました。
最大の成果は、「売れる」という手応えを通じて事業化への強い確信が得られたことです。インタビューを行う前は見当がつきませんでしたが、建設の現場において決定権のあるキーパーソンは誰なのか、どのような製品をどうやって打ち出せば買ってもらえるのか──それが深く理解できたことで、サービスの内容が研ぎ澄まされ、事業の方向性が明確になりました。
今回の新規事業は、ニコンの既存の事業部とは顧客軸がまったく異なっていたこと、何より、建設現場に今ある課題を製品サービスに落とし込み、スピード感重視で販売する必要がありました。そのため、ニコンの事業部のなかのプロダクトの一つとしてではなく、独立した会社として立ち上げるのがベストだと判断したのです。この意思決定ができたのも、ビザスクを活用し、市場の生の声という客観的な判断材料があったからだと思います。
ニコンには、長期的視点で技術を育てるDNAと新しいことに挑戦するカルチャーが両立しています。そして、現代のビジネスにはより一層のスピード感が不可欠です。今回のスピンオフは、その両立を目指す一つの答えだと考えています。ニコンとクロスセクターは良い距離感を保ちながら、オープンイノベーションを通じてクロスセクターのさらなる挑戦を支えます。
クロスセクターは、ビザスクで得た知見をさらに発展させ、建設業界の「労働力不足」や「インフラ老朽化」といった社会課題の解決に貢献していきます。そして、新しい業界の知見をニコンにフィードバックすることで、両社の成長につなげます。ビザスクのサービスは新規事業の立ち上げのタイミング以外にも、既存事業の課題解決にも活躍してくれそうなので、今後も活用できると考えています。

