「戻るにもお金がかかる」…移住3年目に決めた再転居
誠司さんも、実は同じことを感じていました。
自然の近くで暮らす生活には魅力があります。しかし、年齢を重ねるにつれ、車を前提とした暮らしへの不安が大きくなっていました。ある日、誠司さんが軽いめまいを起こし、明美さんは初めて「夫が運転できなくなったら」と本気で考えたのです。
「この家で80歳まで暮らせるのか」
二人で話し合ううちに、その問いに自信を持って答えられないことに気づきました。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上の一人暮らしの人は増加しており、令和7年時点で65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は男性18.3%、女性25.4%と推計されています。夫婦で暮らしていても、いずれどちらかが一人になる可能性はあります。そのとき、医療や買い物、交通の利便性はより重要になります。
夫婦は移住3年目に、再び住まいを見直すことにしました。東京へ完全に戻るのではなく、首都圏近郊の駅に近いマンションを探す。病院やスーパーが徒歩圏内にあり、子どもの家にも行きやすい場所を選ぶことにしたのです。
ただし、一度移住した後の再転居は簡単ではありません。購入した中古住宅を売るには時間がかかり、希望価格で売れるとは限りません。引っ越し費用、仲介手数料、新居の初期費用もかかります。退職金2,500万円があるとはいえ、住み替えを繰り返せば資産は確実に減ります。
「最初から、もう少し慎重に考えていればよかった」
誠司さんはそう話します。
夫婦は家を売りに出し、同時に新しい住まいを探し始めました。東京の便利さを恋しがるだけでなく、今後10年、15年をどう暮らすかを考え直したのです。
地方移住は、決して悪い選択ではありません。自然の中で暮らすことが合う人もいれば、地域に溶け込み、充実した生活を送る人もいます。
しかし、老後の移住では、「今の理想」だけでなく、「年齢を重ねた後の現実」を見ておく必要があります。
車がなくても暮らせるか。通院は続けやすいか。友人や家族と会える距離か。配偶者に先立たれたあと、一人で生活できるか。
移住3年目の決断は、誠司さん夫婦にとって失敗を認めるようで苦しいものでした。それでも二人は、こう考えるようになりました。
「後悔したまま住み続けるより、今ならまだ選び直せる」
老後の住まい選びでは、将来の健康状態や交通の利便性、医療機関へのアクセス、家族や友人との距離など、年齢を重ねた後の暮らしまで見据えて考えることが重要です。また、一度決めた住まいが必ずしも最適とは限らないため、状況の変化に応じて住環境を見直せる余裕を持っておくことも大切だといえるでしょう。
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