(※写真はイメージです/PIXTA)

イランでの紛争が長引く中、今後、世界のエネルギー市場やその他の分野にどのような影響が出るのかが注目されています。エネルギー価格は重要ですが、影響はそれだけにとどまりません。インフレや経済成長など、より広い分野に波及する可能性があります。この状況について、アライアンス・バーンスタイン株式会社のシニア・インベストメント・ストラテジスト、穂谷栄一郎氏が解説します。

カタールの世界最大液化天然ガス輸出施設、紛争開始以降ほぼ稼働せず

現時点(2026年5月29日現在)で比較的はっきりしているのは、カタールにある世界最大の液化天然ガス(LNG)輸出施設(ラス・ラファン)が被害を受け、紛争開始以降、ほぼ稼働していません。

 

現在の情報では、世界のLNG供給の約3-4%が、今後3-5年にわたって停止する可能性が高いとみられています。一見すると小さい数字に見えますが、これは世界全体で見ると約1年分の供給増加に相当する規模であり、影響は決して小さくありません。

 

ただし、紛争前の時点でLNG市場はやや供給過剰の状態に向かっていたため、ある程度のクッションはありました。それでも、供給と需要のバランスには大きな影響が出ています。

 

また、エネルギー関連のさまざまな設備(採掘、輸送、精製など)について、40-80程度の施設が影響を受けたと報告されています。ただし、油田やガス田そのものは大きな被害を受けておらず、問題は主にインフラにあります。

 

その中でも5-10程度の施設は深刻な損傷を受けており、修復に数年かかる可能性があります。一方、その他の多くの施設は比較的軽い被害で、数カ月程度で復旧すると見られています。

状況が早期に落ち着いても、市場の回復スピードには「幅」

状況が早期に落ち着いた場合でも、回復のスピードには幅があります。

 

LNGについては、ラス・ラファンの被害が大きな制約になります。この供給は、紛争がどのように終わっても短期間では戻りません。

 

原油については、比較的早く回復する可能性もあります。楽観的な見方では、状況が安定すれば数週間でかなりの生産が戻るとされています。これらの国々は復旧の経験があり、紛争前には余裕のある生産能力も持っていました。

 

一方で、完全回復には数年かかる設備もあります。一般的な見方では、影響を受けた生産能力の80-90%が3-6カ月で回復し、残りはそれ以上かかると考えられています。

 

さらに、輸送も重要です。仮に供給が回復しても、石油やガスがアジアや欧州に届くまでに30-45日かかります。その間は在庫が減り続けるため、価格はしばらく高止まりする可能性があります。

最初に不足が懸念されるのは「ジェット燃料」「軽油」

一般的に最初に不足するのは、ジェット燃料と軽油です。これらは性質が似ており、需要が高い一方で供給が限られやすい特徴があります。

 

現在、一部の地域ではジェット燃料が最も高価な石油製品になっています。欧州やアジアでは供給が限られているため、取り合いになっています。その結果、航空便の欠航が増えています。

 

また、これらの価格上昇は物流や工業にも影響し、経済活動全体に波及します。

このまま在庫が減り続けると、約1カ月分程度の余裕しか…

現在は原油在庫が供給不足を補っていますが、その余裕は減っています。

 

このまま在庫が減り続けると、約1カ月分程度の余裕しかありません。現需要に対して供給不足が続くと、需要が減少するまで価格が上がることになります。

 

過去の例では、需給が崩れた際、原油価格は1バレルあたり150-180ドル程度まで上昇することがありました。

市場は「比較的楽観的な見通し」を織り込んでいるようだが

現在の市場は、比較的楽観的な見通しを織り込んでいるように見えます。具体的には、輸送ルートが再び使えるようになること、被害が管理できる範囲に収まること、そして在庫が深刻に不足する前に状況が落ち着くことを前提としています。

 

過去を振り返ると、このような楽観的な見方は、実際に正しかった場合も少なくありません。2019年のアブカイク施設への攻撃や、ロシアとウクライナの戦争初期などでも、世界の石油システムは予想以上に早く回復しました。

 

ただし一方で、1日当たり500万-1,000万バレル規模の需要減少や、エネルギー以外の重要な原材料の供給が長く混乱するといった、より悪いケースについては、現時点では十分に市場に織り込まれていないと考えられます。

情勢が安定した後、長期的にはどんな変化が起こり得るのか

いくつかの調整が起こると考えられます。政府は、大きく取り崩された戦略石油備蓄を再び増やそうとする可能性があります。民間企業の在庫も、時間をかけて以前より多めに持つように変わっていくかもしれません。

 

また、中東からの供給には、地政学的リスクがこれまで以上に意識されるようになり、その分だけ価格に上乗せされる可能性があります。その結果、エネルギー価格の基準となる水準は、やや高くなる可能性があります。

 

さらに、新たな原油の生産がどの地域で進むかについても、徐々に変化が出てくると考えられます。また、代替エネルギーや電力源への投資も拡大していくでしょう。1970年代の石油禁輸のような大きな供給ショックは、これまでエネルギーの仕組みを変えるきっかけとなってきました。今回も全く同じではありませんが、示唆するところは大きいと言えます。

投資家は「下振れのシナリオ」を軽く考えてはならない

下振れのシナリオ(状況が悪化する可能性)は実際に存在しており、軽く考えるべきではありません。

 

一方で、これまでの歴史を見ると、世界のエネルギーの仕組みは、予想以上に柔軟に対応してきたことが分かります。たとえば、通常は注目されない小規模な施設でも、価格が見合えば稼働することがあります。

 

短期的な地政学の動きの多くは、こうした予測しにくいリスクに当てはまります。短期的なニュースに左右されるよりも、長期的な構造変化を見極めることの方が、より投資先を正しく選択できる可能性が高いと考えています。

 

 

穂谷 栄一郎
アライアンス・バーンスタイン株式会社
運用戦略部/責任投資推進室 シニア・インベストメント・ストラテジスト

 

 

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【ご注意】
※本稿は、Iran War Fallout:The Real Market Risks Aren’t Just Oil参考に、再編集したものです。詳細については当該ブログをご覧ください。
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当資料は、2026年5月29日現在の情報等を基にアライアンス・バーンスタイン株式会社が編集した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。当資料に掲載されている予測、見通し、見解のいずれも実現される保証はありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。

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