(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の親を支えるため、独身の子どもが同居を選ぶケースは少なくありません。生活費を分担でき、見守りもしやすい一方で、家事や通院、精神的な支えが一人に集中すると、子ども自身の生活が削られていくこともあります。親を大切に思う気持ちがあっても、同居を続けることだけが支援の形とは限りません。

「俺の人生、このままでいいのか…?」限界を感じた瞬間

限界を感じたのは、会社で管理職への打診を受けたときでした。やりがいのある話でしたが、業務量は増え、出張も発生します。健司さんは即答できませんでした。

 

「母がいるので難しいかもしれません」

 

そう言いかけた瞬間、ふと自分に問いかけました。

 

「俺の人生、このままでいいのか……?」

 

帰宅後、健司さんは母の寝顔を見ながら、自分の将来を考えました。このまま同居を続ければ、母は安心かもしれません。しかし、自分は仕事の機会を逃し、交友関係も狭まり、将来の貯蓄も増えないまま50代後半を迎えることになります。

 

翌週、健司さんは地域包括支援センターに相談しました。母の状態や生活の困りごとを話すと、担当者からは介護保険の申請、配食サービス、見守り支援、高齢者向け住宅などの選択肢を教えられました。

 

内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上の一人暮らしの人は増加しており、令和7年時点で65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は男性18.3%、女性25.4%と推計されています。高齢の親が一人で暮らすこと自体は珍しくありません。大切なのは、家族だけで抱え込まず、必要な支援につなげることです。

 

健司さんは、昭子さんに別居を切り出しました。

 

「母さんを見捨てたいわけじゃない。でも、このまま一緒に暮らすと、俺も苦しくなる」

 

昭子さんは最初、強く反発しました。

 

「私が邪魔だっていうの?」

 

健司さんは首を振りました。

 

「違う。長く支えるために、距離を変えたいんだ」

 

話し合いは一度では終わりませんでした。母は泣き、健司さんも罪悪感に押しつぶされそうになりました。それでも、同居を続けることが親子の関係を悪くしている現実は、もう無視できませんでした。

 

数ヵ月後、昭子さんは見守りサービスのある高齢者向け賃貸住宅へ移りました。健司さんの自宅から電車で30分ほどの距離です。週末には訪ね、平日は電話で様子を確認する。買い物や通院は、地域の支援も利用するようにしました。

 

別居後、昭子さんはしばらく寂しそうでした。それでも、同じ建物の入居者と話すようになり、配食サービスも利用し始めました。健司さんも、仕事に集中できる時間を取り戻し、管理職の話を前向きに考えられるようになりました。

 

「母を大事に思う気持ちは変わりません。ただ、一緒に住むことだけが親孝行だと思い込んでいました」

 

介護や見守りは、愛情だけで続けられるものではなく、時間、体力、お金、心の余裕が必要です。同居を終わらせる決断は、冷たく見えるかもしれません。しかし、共倒れを防ぎ、親子の関係を守るために、距離を置くことが必要な場合もあります。

 

親の暮らしをどう支えるかを考えるとき、自分がどこまでなら続けられるのかも同時に考えることが大切なのかもしれません。

 

 

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