最終目標は「財産を残すこと」であり、法人化ではない
法人化するとは、会社を持つということです。つまり、そこには当然「損得勘定」という視点を持たなければなりません。ここまで筆者が伝えてきたメリットにひかれたものの、法人化して損をしてしまっては元も子もありません。目的はあくまで財産を残すことであって、法人化ではないのです。ですので、そのラインの見極めが重要になってきます。
ここでの一番のポイントは、「身内間での給与を経費にできるか、できないか」です。法人化しなくても経費にできるとなれば、そこに所得税はかかりませんので、その分の財産は残せることになります。
本来、所得税では、生計を同じくする身内間での給与を経費と認めていません(身内以外の人または生計を別としている身内を雇って給与を払う分には、経費として認めています)。税務署では〝なあなあ〞の関係を嫌う傾向があるからです。
〝なあなあ〞の関係というのはたとえば、子が5000万円のマンションを買うのに、親に2000万円借金したとします。すると、「借りてるって本当に? 実際は返す気なんてないでしょ」と色眼鏡で見られるようなことです。
それで、税務署に呼び出され「5000万円の内訳を確認させてください」ということになります。時には返済の証拠を要求されることもあります。たとえ毎月、父親の口座にお金を振り込んでいる記録を見せても、「いったん振り込んでから引き出して、子の口座に戻しているかもしれない」と疑われたらどうしようもありません。
この時、税務署は何を見ているかというと、それは子の収入と返済のバランス、つまり返済能力です。収入が30万円しかないのに毎月27万円を父親に返済しているとしたら、「それは無理がある」となるわけです。結果的に「これは借金ではなくて、実質的には父から子への贈与にあたる。贈与税を払いなさい」ということになります。
このように、身内間の金銭的なやりとりは、往々にして「疑ってかかられ」、「調査の対象にされる」のです。
一定以下の規模なら「青色申告」で十分な場合も
それではどうしたらいいのかというと、それは、個人の所得を税務署に申告する時に、青色申告をすればいいのです。そうすれば、身内での給与の受け渡しを経費として認めてもらうことができるようになります。それが、「青色事業専従者給与」という特典です。
ただし、おいしい話に裏があるのはどこの世界も同じこと。これには一定の条件をクリアする必要があります。
その条件というのは、「不動産所得が事業的規模」であり、しかも「実際に不動産貸付けの事業に従事している青色事業専従者でなければならない」というものです。
この「事業的規模」というのがネックです。どういう基準を満たしていれば事業的規模かというと、一般論としては「一軒家なら5棟以上、アパートやマンションなら10室以上」です。土地を貸している場合は5件で1室に換算されます。ただし、これはあくまで形式的な基準です。実際には賃料や後述するサービスの提供度、地域の実情などを鑑みて判定することになっています。
たとえば、サービスの提供度でいうと、マンション9室でも、その中の1室が5LDKもある大きな部屋だったら、事業的規模として扱って差し支えないはずです。逆に大手スーパーにテナントになってもらっていて、月々の賃料が高額でも1軒だけでは事業的規模とは認められません。ここでも実務での曖昧さが生じるわけです。ただ、正解が1つとは限らないというのが税務の難しいところでもあり、面白いところでもあります。
結論として、事業的規模の不動産所得がある人が、青色申告の特典を使って所得税を低く抑えられるのであれば、わざわざ法人化するまでもありません。1000万円の不動産所得がある人が青色申告をした結果、家族への給与300万円分を経費にすることができれば、法人化する手間をかけずに財産を残せます。
一方、青色申告の特典だけでは解決できないほど高所得な人は、法人化することをお勧めします。私は1000万円以上の不動産所得を持っている方を目安にしています。ただし、人によって条件などは違ってきますので、先述した、法人と個人にかかる税率差や、個人で経費にしにくいものを経費化できる法人のメリットなどを踏まえて考えることが必要です。