個人の不動産賃貸業は、他の事業所得者などに比べ、経費の面で厳しい扱いを受けています。今回は法人化することで、どれくらい使える経費の幅が広がるかを見ていきます。

個人だと使える「経費」も限られてしまう

前回ご紹介したこと以外にも、法人化のメリットはまだあります。それは、いろいろなものを経費にすることで、「結果的に税金を減らせる」ことです。

 

そもそも法人とは、お金を稼ぐための存在です。個人で経費にできないものも、法人では本来の法人業務に関わるものであれば、すべてを必要経費にできるのです。私たちの業界では、個人の不動産所得については経費にできるものを〝ひも付き〞と呼んでいます。経費と収入がひもでつないだように直接結びついていなければならないことを暗喩したものです。ここが、個人と法人で大きく違うところなのです。

 

個人で不動産賃貸業を営んでいる場合、所得税では家賃収入や地代収入、駐車場収入などは不動産所得となり、必要経費を引くことができます。しかし、その必要経費は収入を得るために使った費用でなくてはならないという縛りがあります。

 

たとえば、アパートの修繕費は物件の価値を高めて入居者を呼ぶための費用ですから、必要経費になります。しかし、自動車を買ったお金やガソリン代は、そのすべてが必要経費になるわけではありません。いくら「所有物件の点検に回るのに車が必要なので」と言い訳しても、「毎日、車で回っているわけじゃないでしょ」と税務署職員に指摘されれば、至極もっともなことですので、反論のしようがありません。「月に2回の頻度で点検に回っている」ことが認められたら、「30日分の2日だから、車にかかる費用全体の1/15だけ経費で不動産所得から引いていいです」となるだけなのです。

 

個人の所得は、自動車の例のように自家用分と業務関連分の区別が曖昧です。1台の自動車を仕事で使うこともあれば、プライベートで使うこともあります。しかし、不動産所得としての経費にしたい場合は、そこを厳密に分けるよう求められます。それで、「全体の1/15だけOK」のような指導をされるのです。

 

これは土地や建物に関しても同じです。賃貸アパートの建物やその敷地の固定資産税は経費ですが、自宅やその敷地の固定資産税は経費ではありません。収入に対応するものではないからです。これを区別なくひとまとめにして計上してしまうと「自宅部分が含まれているからダメ」と税務署に否認されてしまいます。

 

友達との食事代もNGです。「不動産に詳しい友達との、情報交換のための食事会」と無理矢理言い訳しても若干認められればいい方で、たいてい白い目で見られて終わりです。
水道光熱費や通信費も同じくNG。「賃借人に連絡するのに携帯が必要で・・・」は、「それは携帯の通話料全体の何割のこと? 5%もないでしょう」と返されるのがオチです。つまり、家事関連と共通してくる支出については、その全額を経費化することは不可能です。先ほどのようにネチネチいわれながら、少しだけ経費にできるということなのです。

 

あるいは、こんな場合もダメです。銀行から1億5000万円を借り入れて、1億円の物件を建てるような場合です。「1億円はたしかに必要かもしれないけど、残りの5000万円はオーバーローンでしょう。あなたがプライベートな理由で使ったんじゃないの?」という見方をされ、借入金5000万円に対して生じる利息は経費とは認めてもらえないのです。これは税務署の職員が「不動産所得に運転資金などあり得ない」と考えているからなのです。

税務署は、不動産所得を「不労所得」と捉えている!?

実は、他の事業所得者などに比べて、個人の不動産賃貸業は経費の面で厳しくされているのです。なぜかというと、税務署側が、不動産所得は「不労所得」という見方をするからです。不労とは働かないという意味、つまり〝額に汗して努力しないで、簡単に手にした利益〞という意味です。日本人は努力することを尊いとする国民性があるので、楽をして儲けた人には態度がシビアになるのだと思います。だから、〝ひも付き〞で厳密にやろうとする発想が生まれるのでしょう。「八百屋さんも魚屋さんも不動産賃貸業も、所得は所得じゃないか。なぜ自分たちだけ?」と不公平さを感じる方がいても、八百屋さんや魚屋さんの所得と、個人が営む不動産賃貸業の所得を同じとは考えてくれないのです。

 

偏見といってしまえば、そうかもしれません。偏見がいいとか悪いとかの議論は別にして、「そういう偏った見方を個人の不動産賃貸業はされているのだ」という前提を知っておけば、経費の面で厳しくされることに合点がいくのではないでしょうか。

 

このように、個人の不動産所得では経費になるものが非常に限られてしまうのに対して、法人はどうかというと、ズバリほとんど否認されません。その答えはただ「業務関連だから」です。個人の時の細かいやりとりは必要ありません。というのも、考え方の根本が、「法人の活動は原則としてすべて収入を得るためのもの」だからです。

 

そもそも法人名義で領収書がある以上、「業務関連でない」ことを立証するのは難しいことです。お役人も忙しいですから、法人の膨大な領収書を1枚1枚チェックして、「いつ、どこで、誰と、何の目的で?」などと細かいことまで調べ上げたりはしません。よほど悪質で執拗でない限り、ではありますが。

 

また、実は法人であれば、生命保険料を会社の経費にすることも可能です。生命保険料の額に制限はありません。全額経費にできるもの、半分なら経費にできるもの、1/4だけできるものといろいろな種類がありますが、いずれにしても生命保険料が経費になるかならないかは大きな差です。この点については、連載の後半で詳しく述べることにします。

 

何事もやりすぎはよくありませんが、常識の範囲内であれば特別問題にはならないということです。

 

以上、法人化と経費の関係、そして法人化によって経費の幅を広げる方法をご紹介しました。個人においても、賃貸経営や管理に関連していれば接待交際費や飲食費、交通費、電話代までもすべて経費の対象になると思われがちですが、実はそんなことはありません。

 

「経費」の観点における個人と法人の違いを知っておいていただければと思います。

 

<おすすめ記事>
税務調査、住民税…個人事業主が知っておきたいリスクとは?
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    本連載は、2011年8月29日刊行の書籍『相続財産は法人化で残しなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    相続財産は法人化で残しなさい

    相続財産は法人化で残しなさい

    阿藤 芳明

    幻冬舎メディアコンサルティング

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