前回は、法人化にメリットが見出せる事業規模の基準について解説しました。今回は、株式会社化にあたってポイントとなる「親族への役職の割り振り方」などについて見ていきます。

資産家が「法人化」を決断するポイントは2つ

筆者の元に相談に来られる資産家の方たちも、法人化を勧めると、初めは「法人化なんて大層な。個人で気楽にやるよ」と躊躇される方が大半です。しかし、説明していくと、かまえるほど大変でないことをわかっていただけます。それはこれまで筆者のクライアントで、所有型法人をやらなかった人がゼロであることからもご理解いただけるはずです。

 

では、どのようなところでクライアントは納得するのでしょうか?

 

まず、会社設立の資金がそれほど必要ないこと。かつて株式会社の場合、資本金は最低資本金1000万円という決まりがありましたが、現在では1円でも作れることになっています。詳しくはここでは書きませんが、資本金1円といっても、その後の会社設立後の運転資金などがないことになってしまうので、「100万〜300万円程度あれば大丈夫です」と説明しています。

 

次に、「推定被相続人」の財産が減らせること。推定被相続人とは、被相続人となる候補者と考えてください。以下、説明の都合上、父親を推定被相続人として話を進めます。ここで、あえて「株式会社」の説明をしておきます。株式会社の構造自体を利用するので、知っておかないと始まらないためです。

 

株式会社とは、株主が資金をだすことで作られた会社です。従って経営者(役員)は株主による株主総会で選出・承認されます。そうして委任を受けた経営者(役員)が経営活動を遂行していくのです。会社のトップというと社長や会長をイメージしますが、実際に一番権力を持っているのは株主ということになります。これが株式会社の構造です。

父親は株主にせず、親族に財産を分散すれば節税に

筆者がお勧めする株式会社では、父親は株主になりません。「株主でなければ、社長でも専務でも従業員でも好きなポストに就いてもらってかまいません」というと、少し悩まれる方もいますが、本当になんでもよいのです。株主には実際、配偶者か子になってもらうことをお勧めします。役員は、株主と同じか、親族関係にある方にします。

 

それはなぜか? ここはいつも強調する点ですが、そうすることにより、株主(出資者)が会社の財産(株式)を持つことになるので、父親の財産にはならなくなるのです。結果的に法人化することで父親の財産が減り、相続税対策になっているのです。

 

父親は、株主以外であれば、社長になっても専務になっても、相続税には一切関係ありません。ただ、せっかく父親の財産を分散させるための法人化です。父親を役員にして役員報酬を支払ったら、また父親の所得が増えてしまうということも頭に入れておきましょう。とにかく、こうすれば、父親以外の親族に財産を分散させることができます。会社への出資のための資金がなければ、借り入れか贈与かという話になります。ここで重要なのは「配偶者や子などの親族は株主にすると同時に、従業員ではなく必ず役員にする」ことです。

「役員報酬」と「従業員給与」の法的な違いを理解する

実際、役員と従業員は、税務上、大きな差を生みます。それは、役員報酬と従業員の給与は法的な性質が全く異なっていて、税務署職員の認識も違うためです。役員報酬なら1ヵ月に1回1時間の仕事でも会社に貢献していると見なされ、それが認められます。役員と会社の関係が委任関係というものであることから、業績の対価として支払うことができるからです。

 

一方、これが従業員だと1時間働けば1時間分の給料しか認められなくなります。従業員と会社の関係が雇用関係となり、給与は労働時間の対価として支払われるからです。つまりはそれを利用します。配偶者や子などの親族を役員にして、役員報酬を払うことにすればよいのです。ただ、その際に「役員報酬額は毎月同じ日に同額を払ってください」とお願いしています。もし先月は100万円、今月は200万円、来月は250万円と変動させると、同額と認められない部分を賞与と見なされて損金として認められなくなってしまうからです。役員の給与は会社の経費になりますが賞与はならないのです。

 

ちなみに従業員の場合は、給与でも賞与でも全額経費扱いです。それなら従業員の方が使い勝手はよさそうですが、従業員はそもそも給与が労働時間の対価なので低額になってしまいます。また、前述した法人化する必要がない場合という話で、青色申告の特典で給与を経費にできることを紹介しましたが、これと比べても、役員報酬の方がはるかに高額の給与を経費として会社の所得から差し引くことが可能です。

 

お金の流れは、下記の図表でもう一度確認してみてください。

 

[図表]所有法人のお金の流れ

 
 

仮に、父、母、子2人の4人家族で、子が2人とも成人しているのであれば、父以外の3人を役員にするのがいいのではないかと思います。この場合、子が生計を共にしていても、していなくてもかまいません。

 

3人全員を役員にする理由はすでにおわかりでしょう。役員の数が多いほど法人の所得、ひいては財産の分散ができるため、利用しない手はありません。貰う側としても、所得税は累進課税方式ですから、1000万円を1人で背負い込むより3人で333万円ずつ背負った方が各人の適用税率が断然低く済みます。

 

ただ、だからといって、役員を増やしすぎるのはよくありません。法律上は、役員の数に制限はないので何人いてもかまいませんが、「規模と内容に対して5人も10人もいるというのは不自然」といわれないためには、おのずと人数に制限がでてくるはずです。

 

また、税法には定められていませんが、原則的には、学生や未成年者に対する役員報酬の支払いは認められません。役員になったところで仕事をしているとは常識的に考えにくいからです。

本連載は、2011年8月29日刊行の書籍『相続財産は法人化で残しなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続財産は法人化で残しなさい

相続財産は法人化で残しなさい

阿藤 芳明

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の税制は、今、法人の税負担を軽くして企業の動きを高め、その代わりに個人の資産家から税収を得る方向へ動き出しつつあります。まさに資産家いじめの税制が訪れようとしているのです。 そのような中、相続財産の中でも約…

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