不動産の管理業務で問題になるのは「実体」の有無であり、法人そのものではありません。今回は、収益を上げる物件を法人が所有する「所有型法人」の考え方について見ていきます。

プロスポーツマネジメント会社に学ぶ「実体」の作り方

作った「法人」に実体を持たせるにはどうしたらいいのでしょうか? そのヒントは、プロスポーツ選手のマネジメント会社にあります。

 

私が税務署職員であった当時も、オフィス○○のような会社を設立して、コマーシャル出演料や講演料による正業以外の所得を、マネジメント会社の役員である妻や子に分散させる方法はありました。すべてその選手の知名度による稼ぎ、つまり個人の所得が法人へ移転されていたわけです。

 

税務署の職員としては、おかしな話だと思いましたが、実際にその会社に所属する人が得た報酬を役員に分配しているわけですから、会社としての実体はあるわけです。

 

これを不動産賃貸業に置き換えた時、どのように考えられるでしょうか? 最初の回でも述べたように、実体のない管理業務が問題であって、法人が問題ではないのです。そうであれば、不動産賃貸業での収益そのものを、個人の所得ではなく法人の収入とすればよいのではありませんか。つまりは、収益を上げる物件を法人が所有すればいいわけです。これが「所有型法人」なのです。

 

税理士になって、大手不動産会社のセミナーで最初に所有型法人のことをお伝えしたら、これが大地主さんたちに評判がよく、いろいろな方から仕事を頼まれるようになりました。そのことが「この手法が間違っていない」という自信を私に持たせてくれました。

 

また、事務所を構えてから20年、私のクライアントで所有型法人を敬遠された方は、1人もいらっしゃいません。新規のお客様はその内容を聞いた上で所有型法人にしますし、既存の方は2棟目、3棟目の賃貸物件も所有型法人の形態にさせていただくこともあります。

 

これらのことが、所有型法人が相続税対策において有益であることを、何よりも雄弁に物語っているはずです。

個人は重く、法人は軽く・・・これが税負担のトレンド

所有型法人を語るのに欠かせないのが、日本のこれからの税制の方向性です。さて、みなさんは、個人と法人にかかる税金がどの程度違うのか考えたことはあるでしょうか? 実は、法人化はその点でも、後押しされているのです。

 

現在でも、日本の法人税は諸外国と比べて非常に高く、このままでは日本の企業が国際競争に勝てないという意見が強くなってきています。近く、どこかのタイミングで、法人税率を下げる改正が行われてもおかしくないでしょう。

 

それに比べて、個人の所得税率は、今後上がることはあっても下がることは考えられません。法人税が減収になったら、ほかに徴収できるところは個人しかないのです。ただでさえ税収が足りず、赤字国債を発行しているのに、税金の大口である法人税が減ったのでは、ますます足りなくなってしまいます。それを補うのは個人です。今後の税制の流れを見越しても、今のタイミングで法人化するのがベストだと思います。

 

では、個人にかかる税金とは何か。本連載をお読みのみなさんは痛いほどご存知かと思いますが、確認しておきましょう。そう、所得税と住民税です。

 

所得税がかかる主なものとしては、給与として得た所得や個人事業で得た利益があります。税率はというと、給与が増えれば増えるほど上がります。所得の額によって変わるのです。細かくいうと、5〜40%までの6段階に区分されています。所得税は他にも、退職金、株の配当、預貯金の利子、不動産賃貸業の収益、財産を売却して得た利益などにもかかってきます。

 

住民税は、前年中に所得があった人に課税されるものです。計算方法は、地方税法の住民税の規定で決められている所得控除額に算定し直した上で、その課税所得金額に対して10%が課税されるというものです。個人の場合は、その所得税と住民税を合わせたものが実質的な税率となります。

 

一方、気になるのは法人の場合です。法人の種類も幾つかありますが、本書が目指す法人化は、中小法人。資本金1億円以下の会社です。その中小法人にかかる法人税は、18%です。念のためお伝えしておくと、この18%の税率は年800万円の所得までが対象で、2014年3月末までの期限付きという条件があります。

 

年800万円を超える所得には30%の税率がかかってきます。所得とは、会社の売上高から経費を差し引いた金額と考えてください。

 

法人が払う税金には他にも、法人住民税と事業税(地方法人特別税を含む)があります。事業税は大会社の場合、赤字の会社であっても課されることがあります。

 

法人税と法人住民税は会社の経費には含まれませんが、事業税は会社の経費に含まれます。従って、経費になる事業税を所得から差し引いた上で、実質的に負担すべき法人税や法人住民税などがどれくらいになるかを考えるのが、法人税の法定実効税率です。

 

この法定実効税率の詳細な計算方法は割愛しますが、東京都の場合だと800万円までは約31%、800万円を超える金額は40・69%となっています。

 

さて、個人の税率と比べてみてください。個人所得が800万円であれば税率は33%、1000万円では43%となり(下記図表参照)、法人化して法人税を払った方が、個人で所得税を払うより安くて済むようになることがわかります。

 

[図表]所得税・住民税合計試算表

本連載は、2011年8月29日刊行の書籍『相続財産は法人化で残しなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続財産は法人化で残しなさい

相続財産は法人化で残しなさい

阿藤 芳明

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の税制は、今、法人の税負担を軽くして企業の動きを高め、その代わりに個人の資産家から税収を得る方向へ動き出しつつあります。まさに資産家いじめの税制が訪れようとしているのです。 そのような中、相続財産の中でも約…

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