(※画像はイメージです/PIXTA)

経営者は日々、数字を見ながら意思決定を行っています。売上高、利益率、顧客数、離職率――。企業経営においてデータは欠かせない判断材料です。しかし、現場では「数字は良いのに成果が出ない」「データを見ても答えが分からない」といった場面も少なくありません。実は、こうした悩みは政策立案の世界でも同様です。日本で進められているEBPM(証拠に基づく政策立案)の運用実態をたどると、データは意思決定を支える重要な材料ではあっても、それだけで正解を導き出せるわけではないことが見えてきます。日本のEBPMの実情について公認会計士の岸田康雄氏が解説します。

政策の運命を握るのは、データよりも「専門家の直感」?

行政事業レビューの現場は、驚くほどアナログです。基本的には、役所が用意した資料に対し、外部の有識者が質問を投げかける「口頭でのやり取り」で進みます。

 

なぜデータに基づく分析ではなく、こうした“おしゃべり”が中心になるのでしょうか。その背景には、「公共政策の担当者に直接問いかければ、低コストで比較的容易に実態が把握できるはずだ」という、ある種の楽観的な思い込みがあります。

 

しかし、この「低コストな問答」が、ときに議論を本来の評価から脱線させます。

 

たとえば、若手船員の確保を目的とした助成金事業のレビューでは、話題がいつの間にか「日本の海運産業の構造」という大きなテーマに移り、船を1隻しか保有しない「一杯船主」が多い業界への不満が噴出しました。

 

そこでは、「補助金の存在が、非効率な事業を温存させるゾンビカンパニーやパラサイトカンパニーを生んでいるのではないか」といった、科学的データではない“個人の直感”による批判が飛び交いました。

 

客観的な数値目標の達成度よりも、その場にいる専門家の「grit(気骨)」のある意見が政策の運命を左右してしまうというのは、厳密なエビデンスを理想とする立場からすれば、極めて皮肉な構造といわざるを得ません。

あまりに壮大すぎる「成果」設定

行政事業レビューでは、政策の設計図として「ロジックモデル」が用いられています。これは、いわば政策の“レシピ”のようなものです。

 

「予算(材料)」を使い、「事業(調理)」を行い、「成果(料理)」が生まれ、最終的に「社会がどう変わるか(食べた人の健康)」という理屈を見える化したものです。

 

しかし現在、このレシピに「インパクト・インフレ」というべきバグが起きています。

 

象徴的なのが「天然ガスの普及」事業です。たった1つの補助金事業であるにもかかわらず、その最終的な影響(インパクト)として、あろうことか「国全体の温室効果ガス26%削減」という、あまりに巨大な目標が掲げられていました。

 

温室効果ガスの削減は、国中のあらゆる政策が絡み合ってはじめて達成されるものです。にもかかわらず、単一事業のインパクトを「海全体の浄化」のような規模に設定してしまうと、目の前の「1杯のバケツの水」がどれだけ貢献したのかを測ることは不可能です。

 

つまり、1つの事業に国全体の目標を背負わせてしまうと、その事業本来の効果が見えなくなります。

 

このレシピの“誇大広告”が、皮肉にも政策の効果を測定不能にするというワナに陥っているのです。

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