税法の「隙」をつくような節税は危険
相続税対策は、土地と建物の評価次第で大きく変わります。そこに税理士の手腕が問われるところが大きいことはいうまでもありません。その上で不動産賃貸業を法人化し、さらなる節税策をとるというのが、私の考えです。
この不動産賃貸業の法人化を、私は独自で「管理型」と「所有型」の2タイプに分けて考えています。従来から広く行われてきたのが、自身の賃貸物件を管理させる名目で、自ら管理会社を作る「管理型法人」です。
私が本連載でみなさんにお勧めしようとしているのが、自身の賃貸物件を法人名義で所有する「所有型法人」。どちらも大きなうまみがある点では一緒なのですが、結論からいえば、前者はすでに過去の産物となっています。
私が税理士として一本立ちしてから、クライアントにはすべて「所有型法人」の形態を取ることを勧めてきました。その理由は、私が税務署職員であった30年近く前の話にさかのぼります。私が税務署職員であった当時から「管理型法人」はすでに「おかしい」といわれていたのです。
ここで管理型法人の状況を簡単に説明します。賃貸アパートやマンションを所有しているオーナーが、この賃貸物件を管理するための会社、いわゆる法人を自分で作ります。オーナーは管理をしてもらう名目で管理料を法人に支払っていることにする、というものです。
実際に会社とはいっても業務の実体はなく、そういう体裁をとっているだけにすぎません。そうして、その会社に賃貸収入の大半を入れるだけで、管理料は経費と認められ、個人の所得から差し引くことができるのです。結果、オーナーにかかる所得税は軽減されます。
また、法人へ移ったように見せかけたお金は、オーナーの配偶者や子をその管理会社の役員にしてしまえば、給与という形で、所得を分散させることができます。形としては、オーナーからではなく法人から給与を払っていることになるので、贈与税を払うことなく、財産を配偶者や子に移転していけるわけです。
こんなことが日常茶飯事として行われていました。
うまく税法の隙をついているといえば聞こえはいいですが、実際、名目だけの管理会社に、自分が稼いだお金をどんどん支払うことなど現実的ではありません。極端な例でいえば、自分の所得の80%を払っていることにしていた人もいたほどです。そこまで多額にしたら、それはもう主客転倒というものに他なりません。
もちろん税務署としてもそんなやり方をずっと認め続けるわけにはいきません。そこでいろいろな経費を考慮した上で、収入に対し20%以下までの管理料は認めようということになったわけです。
ただ、それはあくまで不文律としての決め事であって、法律ではありませんでした。ですので、税務署側が「修正申告をしなさい」と指導をしても、税理士は「修正する根拠はどこにも記載されていない」といって一蹴することも多々あったのです。
法人に業務の実体がなければ、税務署は必ず追及する
税務署のやり方は今もさほど変わらないと思いますが、「グレーな部分に関してうるさい奴はしょうがない」と、うるさくない人にのみ、この決まりを適用していました。
おかしな話のように思われるかもしれませんが、それがお役所仕事というものです。だから、私は税務の世界では「声の大きなものが勝つ」と信じ続け、税法にてらして是は是、非は非の姿勢でクライアントの代弁者としてこれまでがんばってきました。
話がそれましたが、この管理型法人にも2006年に1つの契機が訪れます。税理士業界を揺るがす大きな裁決があったのです。
そこではついに、管理会社の実体がないことが問題として取り上げられ、20%云々の前に、「その20%でどんな業務をしているのか」を問われることになったのです。事実、管理をやっているとして、具体的に内容をあげたとしても、せいぜい廊下の掃除などの清掃業務、植え込みの手入れ、帳面付けなどしかありません。
そもそも、実際には外部の管理会社を利用していることがほとんどなのですから、その作業ですら自分でやる必要はありません。また、外部の管理会社には基本的に5%程度しか管理料を払わないことを考えても、妙なことだとしか思われません。結果、「実体のないものはダメだ」ということで、その裁決以来、この手法が認められなくなっていったのです。
もし「自分は今でもこの方法でやっている」という人がいれば、たまたま税務署に気付かれていないだけだと考えてください。
こういった個人の不動産所得の事例は、見つけてもその金額は相対的に少なく、税務調査の対象になりにくいため、そのままということも起こり得るのです。だからといって、この手法が認められているわけではありません。いつか問題点を指摘されて、痛い目を見る危険性はあります。