「申告書を書いたことがない米国会計士」がいる時代――AIが変えた“税務の常識”【国際税理士が解説】

「申告書を書いたことがない米国会計士」がいる時代――AIが変えた“税務の常識”【国際税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

アメリカでは2000年当時には存在しなかった職業に、現在では5人に1人が従事しているといいます。その変化は新興IT職だけにとどまりません。いまや「会計士」でありながら、一度も税務申告書を作成したことがない人物が会計事務所のCEOを務める時代です。AIによる自動化が進むなか、会計・税務の仕事は「数字を処理する仕事」から「経営を支援する仕事」へと急速に変貌しています。そしてその波は、日本の税務行政や会計業界にも押し寄せ始めています。4月末に『トランプ劇場と超富裕層課税 増税か、減税か——税制が映し出すアメリカの真実』を刊行したばかりの奥村眞吾税理士が解説します。

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「2000年には存在しなかった仕事」に就く米国の人たち

米国では近年、「仕事」の定義そのものが大きく変わり始めています。

 

LinkedInの発表によれば、現在アメリカ人の5人に1人が、2000年当時には存在しなかった職業に就いているとされています。もちろん、新しい肩書が増えただけではありません。問題は、昔から存在していた職業ですら、その仕事内容が別物になっていることです。

かつて建築士といえば、設計図を手で描く専門職でした。しかし現在では、CADやAI設計支援ツールを駆使し、データ分析やシミュレーションを行う仕事へと変化しています。

 

英会話講師も同様です。従来のように教室で英会話を直接指導するだけでなく、AI教材の運用、オンライン学習データの分析、教育プログラム設計に多くの時間を割くようになっています。

 

つまり、「肩書」は同じでも、中身はすでに別の仕事になっているのです。

「申告書を作ったことがない会計士CEO」という現実

その象徴とも言えるのが会計士でしょう。

 

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が紹介しています。ある人物が大学で会計学を学び、資格試験を突破し、会計事務所勤務も経験したうえで、現在は会計事務所のCEOを務めています。

 

しかし驚くべきことに、彼はキャリアを通じて、ほとんど税務申告書を作成した経験がないといいます。

 

周囲の人たちは、その仕事内容を理解できません。確定申告シーズンの繁忙期に「週末も仕事だ」と言っても、家族からは「でもあなた、税務をやっているわけじゃないでしょう」と返されるそうです。

 

もちろん彼の会社は税務申告業務を行っています。しかし、AIやクラウド会計システム、自動化ツールが事務処理の大部分を担うようになった結果、彼自身の仕事は、営業、顧客対応、組織運営、経営戦略へとシフトしているのです。

 

これは単なる個人の特殊事例ではありません。米国の会計業界では、ミレニアル世代以降を中心に、「会計士=申告書を作る人」という従来のイメージが急速に崩れ始めています。

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