「申告書を書いたことがない米国会計士」がいる時代――AIが変えた“税務の常識”【国際税理士が解説】

「申告書を書いたことがない米国会計士」がいる時代――AIが変えた“税務の常識”【国際税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

アメリカでは2000年当時には存在しなかった職業に、現在では5人に1人が従事しているといいます。その変化は新興IT職だけにとどまりません。いまや「会計士」でありながら、一度も税務申告書を作成したことがない人物が会計事務所のCEOを務める時代です。AIによる自動化が進むなか、会計・税務の仕事は「数字を処理する仕事」から「経営を支援する仕事」へと急速に変貌しています。そしてその波は、日本の税務行政や会計業界にも押し寄せ始めています。4月末に『トランプ劇場と超富裕層課税 増税か、減税か——税制が映し出すアメリカの真実』を刊行したばかりの奥村眞吾税理士が解説します。

日本でも始まった「AI税務調査」の時代

この変化は、日本にとっても他人事ではありません。

 

すでに日本では、税務調査対象の選定にAIが活用され始めています。大量の申告データ、取引履歴、業種別データなどを分析し、不自然な動きや異常値をAIが抽出する仕組みが導入されつつあります。

 

今後は、提出された申告書そのものをAIが自動分析し、リスク判定を行う時代に入る可能性があります。これまで人間の調査官が経験や勘で見抜いていた部分を、AIが統計的・横断的に分析するようになるのです。

 

つまり、「税務調査をする人」だけでなく、「税務調査を受ける側」も、AI時代への対応を迫られているといえます。

IRS職員削減が示す「税務行政の転換点」

米国では、IRS(内国歳入庁)の大規模な人員整理も進んでいます。税務行政のデジタル化とAI活用が進むなかで、「大量の人手を前提とした税務行政」そのものが見直され始めているのです。もちろん、税務の世界から人間が完全に消えるわけではありません。

 

しかし、これまでのように、大量の職員が定型的な確認作業を行う時代は変わっていく可能性があります。

 

日本でも約5万5,000人の国税庁職員を抱えています。AI時代において、国税職員、会計事務所職員、税理士がどのような役割を担うのか。その再定義が始まっているのかもしれません。

AI時代に残る専門家とは何か

AIは膨大なデータを処理できます。しかし、経営者の不安を理解し、将来の意思決定を支え、責任を持って助言することは依然として人間の役割です。

 

だからこそ、これからの専門家に必要なのは、「知識量」だけではありません。変化を読み取り、人と対話し、複雑な課題を整理し、意思決定を支援する力です。

 

「会計士なのに申告書を書かない」という現象は、単なる職業の変化ではありません。それは、AI時代において「人間にしかできない仕事とは何か」が、静かに問い直されていることを意味しているのです。

 

奥村 眞吾
税理士法人奥村会計事務所
代表

 

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