「自由になったはずなのに」別居後に見えた生活費の重さ
久美子さんは、築年数の古い小さな賃貸アパートを借りました。家賃は月5万円台。家具や家電は最低限にし、生活費を抑えれば何とかなると考えていました。
最初の数日は、解放感があったといいます。
「朝、夫の分の朝食を作らなくていい。昼も自分の好きな時間に食べればいい。それだけで、本当に楽でした」
夕飯も、残り物や簡単な麺類で済ませることができました。誰かの好みに合わせる必要がない。その自由は、久美子さんが長年求めていたものでした。
しかし、1ヵ月もしないうちに別の現実が見えてきます。
家賃、光熱費、食費、通信費、通院代。夫婦で暮らしていたときには意識しにくかった支出が、すべて自分一人にのしかかってきました。
「自由になったはずなのに、今度はお金のことばかり考えるようになりました」
厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、国民年金の老齢基礎年金の平均受給額は月5万9,431円。久美子さんの月9万円はそれより多いものの、一人暮らしの生活費をまかなうには十分とは言えませんでした。
「食事づくりからは解放されたのに、今度は“この先どうやって暮らすか”から逃げられなくなったんです」
数ヵ月後、久美子さんは夫と話し合い、完全な別居ではなく、週に数日は自宅に戻る形に変えました。食事も「毎日作る」ではなく、夫も惣菜や冷凍食品を使うことを受け入れるようになったといいます。
大きく何かが一気に解決したわけではありません。久美子さんの不満が消えたわけでも、夫婦関係が元通りになったわけでもありません。
それでも、久美子さんは「あの別居がなければ、何も変わらなかった」と振り返ります。
老後の自由は、家事から離れることだけで手に入るものではありません。生活費、住まい、夫婦の役割。そのすべてを見直して初めて、現実的な形が見えてくることがあります。
「自由になりたかったのは本当です。でも、一人で暮らす準備まではできていませんでした」
久美子さんは今も、少しずつ夫との距離を調整しています。45年続いた暮らしを変えるには、思っていた以上に具体的な準備が必要だったのです。
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