現代に生きる超富裕層への新しい課税法――過去の税制が再び導入される可能性はあるか【国際税務の専門家が解説】

現代に生きる超富裕層への新しい課税法――過去の税制が再び導入される可能性はあるか【国際税務の専門家が解説】

超富裕層に対する課税が注目を集めています。日本では戦後、資金補充のため大規模な富裕層への課税が2度行われました。現代でこれらの制度を復活させることは現実的に可能なのでしょうか。また、復活させることで効果は見込まれるのでしょうか。本稿では著・矢内一好氏のゴールドオンライン新書『世界の税金はどうなっているのか : 富裕層の相続戦略シリーズ【国際編】』から一部を抜粋して、富裕層に課税する現実的な方法とその効果についてみていきましょう。

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復活の可能性はあるか?――戦後まもなく導入された「財産税」と「富裕税」

超富裕層への課税強化策が注目を集めています。所得税や相続税の強化だけでなく、戦後一度だけ導入された「財産税」や「富裕税」を復活させるべきだという議論も聞かれます。しかし、これらの税制は制度設計や運用に多くの課題を抱えており、現実的に再導入できるかどうかは不透明です。

財産税の全体像

富裕層の税負担が軽いという不満から、前項で取り上げた「財産税」や「富裕税」を課すべきだという意見は今も根強くあります。これらの税制は財産への課税を通じて格差の是正を図ることを目的としていますが、実際に運用するとなると容易ではありません。

 

なかには、2024年3月末時点で家計金融資産が約2199兆円に上ることを根拠に、「この金融資産から財産税として多くを徴収すれば国債の負債を解消できる」といった議論もありますが、現実的とはいえません。

 

1946年に制定された「財産税」は当初、法人にも課税する予定でしたが、法人にはすでに戦時補償特別税が課されていたため、最終的に課税対象は個人に限定されました。この財産税は、戦争で財産を失わなかった者に対する一種の戦後負担として実施されたものです。課税対象は一定時点における個人の財産でしたが、預貯金額の把握が大きな課題でした。

 

しかし、1946年3月3日の「預金封鎖」によって預貯金残高を確定できたため、課税基準を設定することが可能となりました。

 

税率は、課税価格が10万円を超える部分に25%、1500万円を超える部分に90%という非常に高い累進税率が適用されました。ただし、正確な財産評価は極めて難しく、「預金封鎖」のような特別措置を伴う税制でした。

わずか3年で廃止された「富裕税」

「富裕税」は、1949年のシャウプ勧告に基づき、1950年から3年間導入されました。

 

当時の日本は戦後復興期にあり、財産格差の是正というよりも、高すぎる所得税率(最高85%)の引き下げを補う目的で導入されました。1950年の税制改革で所得税の最高税率が55%に引き下げられ、その代替・補完税として「富裕税」が設けられました。

 

この税は欧州で採用されている純資産課税(Net Worth Tax)の一種で、所得税と並行して富裕層から安定的に税収を確保する狙いがありました。

 

OECD加盟国では、オーストリア、デンマーク、フィンランド、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、スイスなどが導入しており、ルクセンブルク・ノルウェー・スイスでは法人にも適用されています。

 

一方で、アイルランドは1975年に導入後3年で廃止、フランスも1982年に導入しましたが、1987年に廃止しました。アジアではインド、スリランカ、パキスタンなどが導入しています。

 

富裕税は、富裕層の純資産の年間増加分に定率で課税する仕組みです。相続税や贈与税の評価データを活用することで、既存制度に付加的に導入できる点が特徴でした。しかし、日本ではわずか3年で廃止されました。その理由は、財産増加額を把握するための調書の提出義務が大蔵省令で実質的に停止され、正確な情報収集が困難になったためです。

再導入の可能性はあるのか

「財産税」は、課税に必要な条件が極めて厳しく、実際に執行するのはほぼ不可能です。一方、「富裕税」は、マイナンバー制度など個人財産の情報管理システムが整備されれば、技術的には課税が可能です。

 

とはいえ、税務当局にとっては労力に比して税収が少なく、コストパフォーマンスの悪い税目となるのが現実です。

 

ただし、国民感情の観点からすると、富裕税の導入は歓迎される可能性があります。たとえば、将来的に消費税率を引き上げる際に、「富裕層への課税強化」というメッセージを示す目的で導入されることも考えられます。

 

最終的には、税収効率と公平感のバランスをどう取るか、そして政治がどのような判断を下すかにかかっています。

 

 

※ 本記事は書籍の内容を抜粋・掲載したものであり、最新の法令・制度とは異なる場合があります。実務にあたっては必ず最新の情報をご確認ください。

 

 

矢内 一好
国際課税研究所
首席研究員

 

 

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※本連載は、ゴールドオンライン新書で刊行された書籍から一部を抜粋・再編集したものです。

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