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トランプ劇場と超富裕層課税 増税か、減税か――税制が映し出すアメリカの真実
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富裕層への課税強化策――「貯蓄から投資へ」の政策を阻害しないか
富裕層への課税強化を求める声は年々高まっています。法人税や所得税、消費税といった主要税目の増税は、経済への影響が大きく政治的にも難しい一方で、富裕層やたばこに対する課税は比較的導入しやすい分野として、しばしば議論の対象となっています。
富裕層への課税の方向性
富裕層に対する課税は、大きく分けて「財産」に課税するか、「所得」に課税するかで方向性が異なります。主な手法は次の3つです。
●高額な財産そのものに課税する:財産税
●財産から生じる所得に課税する:富裕税
●所得に課税する:二元的所得税(北欧諸国で採用)
「二元的所得税」とは、所得を勤労所得と資本所得に分けて、前者には累進税率、後者には比例税率を適用する制度です。資本所得に対する優遇措置の是非や、金融・証券税制のあり方と密接に関わる仕組みといえます。
戦後に導入された「財産税」――最高税率90%の異例の課税
日本で「財産税」が導入されたのは、第二次世界大戦後の1946年が唯一の例です。当時、軍需補償や国家財政の再建を目的に、最高税率90%という非常に高い財産税が課されました。預金封鎖や新円切り替えといった措置と同時に実施され、国民生活に大きな影響を与えました。
その後も「富の再分配」や「格差是正」を目的として財産税の導入が話題に上ることはありますが、実際には資産評価の難しさや、現金保有の制限といった技術的・実務的課題が多く、現実的とはいえません。
軽々に「財産税を復活すべき」と主張することは、慎重さを欠くといえるでしょう。
富裕税――所得税を補完する課税の仕組み
富裕税は、財産そのものではなく「財産の増加分」に課税する仕組みです。日本でも戦後、シャウプ勧告に基づき一時的に導入されましたが、3年で廃止されました。
富裕税は、所得がなくても資産価値の上昇に対して課税できる点が特徴です。そのため、所得税の補完的役割を持ちます。シャウプ勧告では、所得税率を引き下げる代わりに富裕税を導入し、税収減を補うことが目的とされました。
将来的に消費税率を引き上げる際、富裕税を組み合わせることで、国民間の負担感を和らげる効果が期待できます。ただし、税率を高く設定することが困難なことや、資産評価の難しさから、実際の税収は限定的になるとみられます。
所得課税の強化と金融・証券税制の見直し
2003年6月、政府税制調査会は小泉純一郎首相(当時)の指示により、「少子・高齢社会における税制のあり方」に関する中期答申をまとめました。
ここで焦点となったのが「金融・証券税制」です。政府の掲げる「貯蓄から投資へ」という政策方針に沿って、貯蓄優遇税制の見直しや株式譲渡益課税の改革が進められました。2004年には、金融小委員会が北欧型の「二元的所得税」導入の検討を提案しました。
しかし、日本では金融所得の多くが源泉分離課税の対象となっており、本格的な導入には至っていません。現在の制度も部分的には「二元的」と評価できますが、完全移行は実現していません。
「貯蓄から投資へ」との両立が課題
富裕層への課税強化は、格差是正や税収確保の観点から一定の合理性があります。しかし、その手段として金融・証券税制を見直す場合、政府が長年進めてきた「貯蓄から投資へ」という政策との整合性が問われることになります。
過度な課税強化は、投資意欲をそぎ、資本市場の活性化を妨げるおそれもあります。したがって、富裕層への課税をどのような形で進めるかは、技術的な問題というより、政治的な意思決定の問題といえるでしょう。
※ 本記事は書籍の内容を抜粋・掲載したものであり、最新の法令・制度とは異なる場合があります。実務にあたっては必ず最新の情報をご確認ください。
矢内 一好
国際課税研究所
首席研究員
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