(※写真はイメージです/PIXTA)

老後に向けて一定の貯蓄を確保し、支出を抑えながら暮らしていれば安心――そう考える人は少なくありません。しかし実際には、医療費や住まいの修繕、家族に関わる支出など、予想していなかった大きな出費が重なることもあります。総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯の平均消費支出は月約14.8万円、可処分所得は11.8万円で、収入だけでは賄いきれないケースも多く見られます。計画どおりにいかないことを前提にした備えが求められています。

「少しでも足しになれば」67歳で始めたバイト生活

正人さんが動いたのは、その不安が現実味を帯びてきたときでした。

 

「まだ働けるうちに、何かしたほうがいいと思ったんです」

 

ハローワークや求人サイトで仕事を探し、見つけたのが近所の飲食店のアルバイトでした。時給は1,200円。週に3〜4日、1日4時間程度の勤務です。

 

「最初は不安でしたが、やってみると意外と体も動きました」

 

収入としては月数万円程度ですが、それでも意味は大きかったといいます。

 

「お金が増えるというより、“減る一方ではない”というのが精神的に大きかったです」

 

厚生労働省『令和6年 高年齢者の雇用状況』によると、65歳以上の就業者数は増加傾向にあり、年齢に関わらず働く選択をする人が増えています。収入の補填だけでなく、生活リズムや社会とのつながりを維持する意味もあるとされています。

 

「働くことで、生活に張りが出ました。家にいるだけだと、どうしても不安ばかり考えてしまうので」

 

現在、正人さんはアルバイトと年金を組み合わせた生活を続けています。支出を見直しながら、無理のない範囲で働くという形です。

 

「正直、想定していた老後とは違います。でも、悲観しているわけではありません」

 

そう話す正人さんの表情は、どこか落ち着いていました。

 

「お金のことは大事ですが、それだけで決まるわけでもないと分かりました。できることをやりながら暮らしていくしかないですね」

 

老後資金は、どれだけ準備していても予想外の出来事で大きく揺らぐことがあります。正人さんは、一度崩れかけた生活を、自分なりの方法で立て直し始めました。備えだけでなく、その後どう動くかが、老後の暮らしを左右するのかもしれません。

 

 

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