(※写真はイメージです/PIXTA)

相続対策の現場では「養子縁組」と「生前贈与」を組み合わせた手法が長年にわたり活用されてきた。しかし、2024年度税制改正および近年の税務環境の変化により、その前提は大きく変わりつつある。従来と同じ発想で進めれば、節税どころか否認リスクや相続トラブルを招く可能性もある。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

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養子縁組は「節税手段」ではない

前提として養子縁組は節税のための制度ではなく、本質的には家族関係を形成する民法上の行為であるという点だ。確かに養子が増えることで、相続税の基礎控除や生命保険非課税枠が拡大するという効果はある。しかし一方で、養子は法定相続人となり、遺留分や遺産分割の権利関係にも影響を及ぼす。

 

したがって、税務メリットのみを目的に判断することは適切ではなく、後の紛争リスクも含めた設計が不可欠となる。

 

この点に関連して、最高裁平成29年1月31日判決は重要な示唆を与えていると言っていいだろう。同判決は、節税目的であっても直ちに養子縁組を無効とすることはできないとする一方で、実質的に親子関係を形成する意思が認められない場合には無効となり得ることを示した。

 

実務上は「節税目的かどうか」ではなく、実態として親子関係が成立しているか、合理的な背景があるかが重視される。

養子縁組と贈与は「タイミング」が重要

税務上、重要なのは贈与のタイミングであるとされる。

 

養子縁組と生前贈与の関係では、「贈与時点における親族関係」により課税関係が決定される。そのため、養子縁組前の贈与は暦年課税の対象となり、縁組後に相続時精算課税を選択したとしても、過去の贈与を遡って取り込むことはできない。

 

この線引きを誤ると、申告誤りや追加課税につながるため、実務上極めて重要な論点となる。

2024年改正で何が変わったのか

2024年度税制改正では、相続・贈与制度の構造に大きな変化をもたらした。

 

相続時精算課税制度については、従来の「2,500万円までの特別控除を前提とした一括移転型」に加え、新たに年間110万円の基礎控除が創設された。これによって、精算課税を選択した場合でも、年間110万円以下の贈与については申告不要かつ相続財産への加算対象外となる。

 

制度の性格は、従来の「一括移転型」から、一括移転と年次移転を併用できる「ハイブリッド型」に変化したと整理できる。

 

一方で、2,500万円を超える部分については贈与時点で課税(20%)され、最終的には相続時に精算される基本構造は維持されている。

暦年課税の見直しと100万円控除の意味

暦年課税についても見直しが行われた。従来は相続開始前3年以内の贈与のみが相続財産に加算されていたが、この期間は段階的に最大7年へと延長されることになった。「長期間贈与すれば相続財産から切り離せる」という前提は大きく後退した。

 

延長された4年分については、その期間に行われた贈与の合計額から最大100万円が控除される仕組みが設けられている。ただしこれは非課税枠ではなく、相続財産に加算する際の調整控除である点に注意が必要である。

 

本来4年間で最大440万円の贈与が可能であることを踏まえると、その多くが相続財産に取り込まれる構造となっている。この制度設計からは、「暦年贈与の否定」ではなく、「長期分散による過度な節税の抑制」という政策意図が読み取れる。暦年課税は主軸の節税手段から補助的な位置づけへと変化しつつある。

非上場株の評価見直しがもたらす影響

相続対策に大きな影響を与える可能性があるのが、非上場株式の評価見直しの議論だ。

 

これまで非上場株は評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式など)の選択や組み合わせにより、実態より低く評価されるケースが存在した。

 

こうした評価と実態の乖離を是正する方向での見直しが議論されており、将来的に制度が変更された場合には、「評価を引き下げることを前提とした相続対策」は機能しにくくなる可能性がある。

 

その場合、相続対策の軸は「いかに評価を下げるか」から「いつの時点で移転するか」へとシフトすることになる。特に自社株のように将来値上がりが見込まれる資産については、贈与時点の評価で固定できる相続時精算課税の重要性が相対的に高まる。

養子縁組と組み合わせた実務戦略

養子縁組と生前贈与を組み合わせる場合には、「誰に・何を・いつ移転するか」を明確に設計する必要があるようだ。

 

典型的な事業承継では、後継者となる養子に対して、自社株など将来値上がりが見込まれる資産を相続時精算課税により移転し、評価額を固定する。その一方で、他の相続人に対しては現金や預金を中心に暦年課税を活用し、非課税枠を時間分散的に利用する。

 

このように、「値上がり資産は早期移転」「安定資産は時間分散」という整理が基本となる。

 

また、制度の時間差を活用することも可能だという。養子縁組前に暦年課税で贈与を行い、縁組後に相続時精算課税を選択することで、それぞれの制度の特徴を活かすことができる。

 

ただし、相続時精算課税は一度選択すると暦年課税へ戻ることはできないため、適用開始のタイミングは慎重な判断が求められる。

税務調査で問われるのは「実態」

現在の税務調査では、形式的なスキームは通用しにくくなっている。

 

相続直前の養子縁組、名義のみの資産移転、不自然な評価操作などは、実態がないとして否認される可能性がある。

 

また、制度適用の誤りだけでなく、「実際に資産移転の意思と実態があったか」が重視される傾向にある。

 

これは最高裁判決の考え方とも整合的であり、形式よりも実質が判断基準となっている。

結論:相続対策は「設計」の時代へ

これからの相続対策は、「いかに税金を減らすか」という発想から、「資産と家族関係をどう設計して移転するか」という発想へと変わる。

 

暦年課税は時間分散の手段であり、相続時精算課税は価値を固定する手段であり、養子縁組は承継関係を構築する仕組みである。

 

これらを個別に使うのではなく、資産の性質・時間軸・家族関係を踏まえて統合的に設計できるかどうかが、相続対策の成否を左右する。

 

相続対策はもはやテクニックではなく、総合的な設計の問題となっている。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

 

 

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