「とりあえず資金を入れる」が積み上げた貸付金
資金繰りに追われる中小企業にとって、最後の頼みの綱となるのが社長自身の私財だ。銀行融資が思うように進まない局面で、「とにかく今を乗り切るしかない」と会社に資金を入れる――こうした決断は決して珍しくないと言えるだろう。
こうして帳簿が積み上がっていくのが、いわゆる「社長の貸付金」だ。最初は数百万円でも、気がつけば数千万円規模に膨らんでいるケースも少なくない。しかし、この行為には後になって大きなリスクが潜んでいる。
この資金は会計上「債権」として扱われる。つまり、会社にとっては借入金であり、社長個人にとっては「いつでも返してもらえる権利」という資産に計上され続ける。
相続で一変する「資産の正体」
問題が表面化するのは、社長に万が一のことが起き、相続が発生したときだ。
会社に貸し付けた資金は、たとえ社に返す余力がなく、回収の見込みが乏しくても、法律上は「債権」として評価される。その結果、相続財産として課税対象となる。つまりは相続税の評価上は「額面通りの現金」と同等に扱われるのが原則だ。
実際には現金が手元にないにもかかわらず、多額の相続税だけが課されるという事態が生じる可能性があるということだ。
実際、都内の中小企業経営者のケースでは、約5,000万円に膨らんだ社長の貸付金がそのまま相続財産と認定され、遺族に数百万円規模の税負担が生じた。会社は黒字であったものの、すぐに返済できる資金余力はなく、対応に苦慮したという。
こうした扱いについては、課税当局・審判所ともに判断は一貫して厳しい。
「あとから消す」は通用しない
平成14年2月26日の国税不服審判所の裁決では、同族会社の経営者が生前に会社へ多額の資金を提供していた。相続開始時点で約1億5,800万円の「貸付金」として帳簿に計上されていた。
きっかけは、相続後の決算処理だった。相続発生後、遺族は「このうち5,000万円はもともと贈与(あげるつもり)だった」と主張し、会社の帳簿上で「受贈益」として処理し、債権を消去した。
しかし国税不服裁判所は、この主張を退けた。
・資金は被相続人の個人預金から拠出されている
・当初から会社側は負債(貸付金)として処理している
・贈与契約を裏付ける証拠は存在しない
裁決では、資金提供の原資は被相続人個人の預金であり、贈与契約の成立を裏付ける証拠もないことから、相続開始時点ではあくまで「貸付金」として存在していたと認定。そして相続後に行われた受贈益の計上は、会社の資金繰りを改善するための会計処理にすぎず、相続時点の評価には影響しないと判断した。
つまり、「相続が起きてから帳簿を操作しても、相続時点での資産価値は変わらない」との結論だった。
