「1億円の壁」の解体――ミニマムタックス、網を広げる
2025年度分から導入された「超富裕層への最低課税(ミニマムタックス)」は、今回の改正でさらに厳格化される。特別控除額が従来の3億3,000万円から1億6,500万円へ引き下げられ、適用税率も30%に引き上げられた。これにより、年間所得がおおむね6億円前後の層にも影響が及ぶ可能性があるとされる。短期的な回避は極めて困難となり、長期的な視点での資産設計が不可欠となる。
さらに、株式譲渡所得や法人を通じた投資運用にも実効税率の強化が生じる。単に所得税率を引き上げるのではなく、富裕層が多用する金融・法人スキームへの間接的な課税強化が着実に進んでいる点は注目すべきだ。
不動産節税、「圧縮の常套手段」が封じられる
不動産を活用した圧縮スキームも大きく変化している。従来の相続税対策で多用されていた手法は、次々と規制の対象となっている。
高級タワーマンションを利用した節税では、相続税評価額と実効価格の乖離を是正する新ルールが導入され、直前対策による節税効果は大幅に限定される。購入時期や評価方法を工夫した短期的なスキームでは、もはや有効な節税は難しい。
また、小口化商品における単なる持分分割による評価圧縮も認められず、物件全体の価値に基づく「実態評価」が重視される。
この改正により、短期的な不動産分割や構造変更による節税手法は通用せず、長期的な視点に立った資産配置と評価の見直しが求められる。さらに、相続開始前5年以内に取得された貸付用不動産の評価については、取得価額を基準とした市場価値ベース(原則80%)への変更がすでに決定しており、2027年1月1日以後の相続・贈与から適用される。富裕層は不動産投資・節税戦略そのものを再考する必要がある。
暗号資産・海外資産――「見えない富」の終わり
資産の透明性も急速に高まっている。暗号資産は、2027年分所得から従来の雑所得(総合課税)から株式等と同様の申告分離課税へ移行する予定だ。ブロックチェーン分析技術の進展や取引業者への報告義務整備により、従来のような匿名性は大幅に制限される。富裕層は「当局に捕捉される前提」での資産管理を迫られることになる。
海外資産も例外ではない。各国間の情報交換制度(CRSなど)が高度化し、海外分散による課税回避は現実的に困難になった。資産の所在を問わず、捕捉されることを前提とした管理と申告が不可欠となる。事業承継税制の見直しも含め、経営者富裕層は法人スキームや事業承継計画の整理を急ぐ必要がありそうだ。
NISAの新枠――「育てる」制度の裏にある「捕捉」の設計?
2027年分から、NISAに未成年(0歳〜17歳)を対象とした新枠(年間60万円、生涯限度額600万円)が新設される。若年層の資産形成を後押しする一方で、将来的に十分な規模に成長した資産については、制度の枠外で確実に把握・課税していく――いわば「育成と捕捉」を両立させる設計といえるだろう。つまり「入り口」を広げつつ、「出口」での把握を強化する制度設計だ。
最大の敵は「準備不足」――流動性なき資産が招く危機
相続税の課税対象が拡大するなか、最も深刻なのは納税資金の不足である。資産が大きくても、流動性の低い不動産や非上場株式が中心であれば、納税時に窮する可能性がある。短期的な節税スキームでは対応できないため、事前の整理と長期的な資産設計が欠かせない。
2026年度税制改正は、短期的な「手法」が次々と封じられ、事前の整理と長期的なグランドデザインを描けるかどうかが、資産承継の成否を左右すると言えるかもしれない。富裕層向けの税制強化は、不動産評価、金融資産、暗号資産、海外資産、法人スキームまで多岐にわたる。備えの差が、そのまま結果の差になる時代が来ているのではないだろうか。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
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