(※写真はイメージです/PIXTA)

非上場株の相続評価をめぐり、制度の大きな見直しが検討されている。日本経済新聞によると、国税庁は過度な節税を抑制するため、評価ルールの見直しに着手する方針であるという。評価方法によっては株価に4倍もの差が生じる実態も明らかになっており、制度変更は中小企業の存続そのものに影響を及ぼす可能性がある。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

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非上場株の“評価引き下げ”が問題視

非上場株の相続税評価は「財産評価基本通達」に基づいて算定されるが、そのなかには複数の評価方式が存在する。代表的なのが、上場企業と比較する「類似業種比準方式」と、純資産を基準とする「純資産価額方式」である。

 

前者は上場企業の株価や配当、利益水準などをもとに相対的に評価する方法であり、収益力が低く見えるよう調整すれば評価額が下がりやすい。一方、後者は会社が保有する資産や負債をベースに評価する方法であるため、保有資産が多い企業ほど株価が高く算定されやすい。

 

企業規模に応じて使い分けられる仕組みであるが、評価方法の違いにより株価に大きな差が生じている。会計検査院の調査(令和5年度決算検査報告)では、類似業種比準方式による評価額は純資産価額方式の約4分の1にとどまるケースが中央値となっており、実務ではさらに乖離が拡大し、実際の価値を大きく下回る水準まで評価額が低下する例もあるとされる。

 

このような仕組みにより、一定の手法を用いれば評価額を意図的に低く抑えることが可能であり、本来より低い評価で相続が行われたり、相続税が大幅に圧縮されたりするケースが広がってきた。今回の見直しが実現すれば、こうした過度な節税を是正し、課税の公平性を確保する方向に向かうとみられる。

見直しの方向性|一部は「実質増税」に

今回の制度見直しでは、評価方法そのものの抜本的な再検討が議論される見込みである。従来の形式的な算定ではなく、企業の収益力や資産状況をより反映した実態ベースの評価へとシフトする可能性が高い。

 

その背景には、評価ルールが本来の「時価を測る物差し」という役割を超え、事業承継を促進する政策手段として機能してきた経緯がある。1980年代以降、創業者世代の引退が進む中で、評価額を抑える方向の改正が重ねられ、制度の中に評価引き下げの余地が組み込まれてきた。

 

また、国税当局はこれまで、評価ルールの例外規定である「総則6項」を用いて過度な節税に対応してきたが、個別対応には限界があったとされる。こうした状況を踏まえ、ルールそのものの見直しに踏み込む可能性が高まっているようだ。

 

今後、こうした歪みが是正されれば、これまで低く抑えられていた評価額が上昇し、相続税負担が増加するケースも想定される。したがって、今回の見直しが実現すれば、実務上「実質的な増税」となることが想定される。

スケジュール――2027年度税制改正を視野

報道によると、国税庁は2026年に有識者による検討会を設置し、年内に議論を進める見通しであるという。その結果を踏まえ、2027年度税制改正大綱への反映が検討されている。

 

一見すると時間的な余裕があるようにも見えるが、事業承継の準備には通常5年以上を要するとされる。制度の方向性が固まりつつある現段階においても、実務上は早期の対応を前提とした検討が求められる局面にあるといえる。

最大の論点は「事業承継とのバランス」

今回の見直しで問題となるのは、課税を公平にしようとすればするほど、事業承継の負担が重くなるという点だ。

 

非上場株の評価が厳格化されれば、過度な節税は抑制される一方で、株価が上昇すれば相続税負担も増加し、後継者にとっての資金的負担は一層重くなる可能性がある。

 

特に中小企業では、株価が高く評価されても、それに見合う現金を保有しているとは限らない。「株はあるが納税資金がない」という構造は現実的であり、状況によっては黒字であっても事業売却や廃業を選択せざるを得ない事態に至ることも想定される。

 

また、事業承継を支援する納税猶予制度についても、適用要件の厳しさから利用が進んでいないという課題がある。本来の制度ではなく評価引き下げに依存する構造が続いてきたと指摘されている。

税理士・経営者が今から考えるべきこと

今回の見直しは単なる税制の変更にとどまらず、経営の前提を左右する問題であると言えそうだ。

 

これまで有効とされてきた評価引き下げを前提とした対策は、今後通用しなくなる可能性が高い。したがって、企業価値そのものをどのように設計するかという視点への転換が不可欠となる。

 

また、評価額の上昇は納税額の増加に直結するため、納税資金の確保も重要な課題となる。生命保険の活用や配当政策の見直し、持株会社の活用など、資金戦略を含めた総合的な設計が求められる。

 

さらに、承継のタイミングも極めて重要である。制度改正の前後で税負担が大きく変わる可能性がある以上、「いつ承継するか」は経営判断そのものとなる。

“節税から設計へ”の転換

今回の見直しが実現すれば、「テクニック型節税の終焉」を意味することになる可能性がある。

 

これまで有効とされてきたスキームは通用しなくなり、制度の隙を突く対策では限界がある時代に入ると考えられる。今後求められるのは、経営・財務・資本政策を一体として設計する力である。

 

非上場株の評価見直しは単なる税制改正ではない。それは中小企業の事業承継のあり方を問い直し、企業の存続戦略そのものに影響を与える転換点となる可能性があるからだ。

 

『富裕層の資産承継と相続税 富裕層の相続戦略シリーズ【国内編】』の著者である八ツ尾順一氏(税理士・公認会計士)は、今回の非上場株評価の見直しについて、次のように指摘する。

 

「今回の議論は“節税対策の否定”として捉えられがちですが、本質はそこではありません。評価方法の歪みを是正し、課税の公平性を確保するという、制度本来の機能を取り戻すための構造的な見直しといえます。

そのうえで、中小企業への影響に注目が集まるのは当然ですが、企業価値をより適正に評価する方向に進むことで、資本政策や経営のあり方を見直す契機にもなり得ます。

もっとも、評価の適正化はそのまま負担増にもつながり得るため、納税資金の確保や承継設計を含めた実務対応はこれまで以上に重要になります。単に負担増と捉えるのではなく、企業価値の設計という前向きな視点で捉えることが重要になるでしょう」

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

 

 

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