相続後に揺れるお金の使い道
「これが最後の楽しみだと思っていたんです」
そう話すのは、恵理子さん(仮名・63歳)です。夫を数年前に亡くし、一人暮らしを続けていました。年金は月13万円ほど。生活は決して余裕があるわけではありませんでしたが、慎ましく暮らしていました。
転機となったのは、実家の相続でした。親が亡くなり、現金や預貯金など合わせて約1,000万円を受け取ることになったのです。
「こんなにまとまったお金を持つのは初めてでした」
最初は、そのまま貯金しておこうと考えていたといいます。しかし同時に、ある思いも芽生えていました。
「このまま何も使わずに終わるのは、もったいないんじゃないか、と」
夫との生前、旅行に行く機会はほとんどありませんでした。仕事や生活に追われ、「いつか行けたらいいね」と話しているうちに、時間が過ぎていったといいます。
そんな中で目にしたのが、海外クルーズの広告でした。
「非日常の世界でした。船で何日も旅をするなんて、自分には縁がないと思っていたので」
費用は約800万円。決して安くはありません。それでも恵理子さんは、「これが最後の贅沢かもしれない」と考え、申し込むことを決めました。
「老後のために残しておくべきかも迷いました。でも、“今しかできないこと”を選びました」
クルーズは、想像以上の体験だったといいます。豪華な食事、各地の寄港地、船上での時間。日常とはまったく異なる世界に身を置くことで、気持ちが大きく変わったと振り返ります。
「楽しかったです。本当に。あの時間だけは、何も考えずにいられました」
