(※写真はイメージです/PIXTA)

「資産は持っているだけでは課税されない」――これまで当たり前とされてきた前提が、いま揺らぎ始めています。都心不動産や株式の価格上昇によって資産価値が膨らむ一方、その多くは売却や相続のタイミングまで課税されない「未実現利益」として蓄積されてきました。しかし、富裕層に資産が集中する現実を背景に、こうした“保有するだけで課税されない構造”そのものを見直す議論が、静かに進みつつあります。その象徴が、かつて導入されながら現在は課税停止となっている「地価税」です。もし再び、資産を保有しているだけで課税される仕組みが導入された場合、不動産や自社株を含む経営者の資産戦略は大きく見直しを迫られることになります。

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富裕層に集中する資産の現実

株式会社野村総合研究所が2025年2月に公表した、2023年の「純金融資産保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数」によれば、純金融資産5億円以上の「超富裕層」は全体の0.2%、1億円以上5億円未満の「富裕層」は2.7%にとどまります。

 

しかし、この両者が保有する資産は全体の約25%を占めており、資産の偏在が顕著であることが分かります。

減税議論の陰で進む資産格差

国会では与野党ともに減税を前面に打ち出す議論が続いています。相続財産20億円に対して11億円の相続税が課された事例が取り上げられ、「税負担が重すぎる」との指摘も見られました。

 

しかし、こうした主張が広く共感を得ているとは言い難く、むしろ社会全体としては資産格差の是正に対する関心が高まっている状況です。

「未実現利益」という課税の壁

近年、都心の不動産価格の上昇が続いており、いわゆる「不動産長者」が増加しています。また、株価上昇により「株式長者」も生まれています。

 

ただし、これらの値上がり益はいずれも「未実現利益」であり、実際に売却や相続が行われるまで課税されません。

 

このため、資産を保有し続ける限り課税を回避できる構造が存在しており、これが課税の公平性に関する議論を難しくしています。

過去に存在した富裕課税の試み

資産の値上がり益に対する課税としては、昭和25年に導入されたシャウプ税制における「富裕税」があります。

 

しかし、この制度は課税技術上の問題などから、わずか3年で停止されました。評価の難しさや納税負担の問題が、大きな課題として残ったのです。

地価税というもう一つの選択肢

もう一つの選択肢が、平成3(1991)年に創設された地価税です。これはバブル期の地価高騰に対応するために導入された国税ですが、平成9(1997)年以降、課税は停止されています(制度自体は廃止されていません)。

 

地価税は、一定の要件を満たす土地を保有する個人・法人に課されるもので、主なポイントは以下の通りです。

 

面積が150㎡以上であること

市街化区域または市街化調整区域に所在すること

住宅用地以外の用途であること(農地・山林・空き地など)

※ただし、住宅用地でも賃貸用や商業利用の場合は課税対象となります。

 

地価税の課税は、課税価格から基礎控除を差し引いた残額に対して、0.3%の税率が課される仕組みです。これに地価税を改正して、一定規模のマンションなども対象に含めてはどうかという提案です。

最大の論点は「評価の難しさ」

地価税を再導入するうえで最大の課題となるのが、財産評価です。

 

土地については路線価をベースに一定の補正を行う方法が考えられますが、マンションなどの評価については、

 

・近隣の売買事例に基づく推計

・不動産鑑定士による評価

 

といった手法のどちらを採用するかなど、制度設計上の検討が不可欠です。

まとめ

地価税の復活は、未実現の資産価値に対して一定の課税を行う手段として、有力な選択肢の一つです。

 

もっとも、過去の富裕税が短期間で停止された経緯からも明らかなように、評価の公平性や納税負担の問題をクリアしなければ、実効性のある制度とはなりません。

 

減税一辺倒の議論が続くなかで、資産課税のあり方をどのように再設計するのか。地価税の議論は、その試金石となる可能性があります。

 

 

矢内一好

国際課税研究所

首席研究員

 

 

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