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世界の税金はどうなっているのか 富裕層の相続戦略シリーズ【国内編】
矢内一好(著)+ゴールドオンライン(編集)
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税率だけでは判断できない相続税負担
まず、税率のみをもって相続税の負担を評価することの妥当性について検討します。
仮に、相続財産の時価が1,000で税率が20%の場合と、同じ相続財産の評価額が500で税率が40%の場合とでは、いずれも税額は200となります。このように、名目上の税率が高くても、評価額の圧縮や各種控除が適用されることにより、実際の税負担は軽減されることがあります。
したがって、税率の高さのみをもって日本の相続税が過重であると結論づけることは適切ではなく、課税ベースや控除制度を含めた総合的な視点から評価する必要があります。
富裕層課税という視点
次に、富裕層を巡る税負担の観点から検討します。
株式会社野村総合研究所の2025年2月公表のデータによれば、日本における純金融資産保有額の階層別構成では、5億円以上の超富裕層は0.2%、1億円以上5億円未満の富裕層は2.7%にとどまっており、いずれも人口全体から見れば少数です。
近年の税制議論においては、こうした富裕層に対する税負担を強化すべきであるとの意見が多く見られます。仮にこれらの層の税負担を軽減した場合、経済的に困窮している層からの反発が生じる可能性があります。
また、欧州諸国の一部では富裕税が導入されており、日本においてもその導入を検討すべきとの意見が存在します。このような状況を踏まえると、相続税率のみを取り上げて批判することは、富裕層課税全体の議論としては十分とは言えません。
相続税の有無だけでは語れない各国の制度
さらに、国際比較の観点から検討します。
日本の周辺国において相続税が存在するのは、韓国、台湾、フィリピン、タイなどに限られます。一方で、中国、オーストラリア、香港、シンガポール、マレーシアなど、富裕層の増加が見られる国々では相続税が存在しません。
たとえば、冒頭で取り上げた事案と同様の資産を有する者がシンガポールやオーストラリアに居住していれば、相続税は課されない可能性があります。また、韓国の大企業サムソンの前会長の相続においては多額の相続税が課されたことが話題となりましたが、仮に同氏が香港に居住していた場合、そのような課税は生じなかった可能性があります。
もっとも、このような単純な比較だけで日本の相続税が高いと評価するのは適切ではありません。各国はそれぞれの経済状況や社会構造に応じて税制を設計しており、このような国家の課税権限は「課税高権」と呼ばれます。したがって、制度の違いを踏まえずに税率のみで優劣を論じることは妥当とは言えません。
海外移住による相続税回避は可能か
最後に、相続税回避の観点から、海外移住の有効性について検討します。
一見すると、相続税のない国へ移住すれば税負担を回避できるようにも思われます。しかし、日本にはこれに対応する制度として、資産の海外移転に対する規制や出国税が整備されています。
さらに、被相続人が海外に移住していた場合であっても、相続人が日本に居住していれば、その相続人に対して日本の相続税が課される場合があります。このように、日本の税制は租税回避を防止するための仕組みが整えられており、単純に海外移住によって税負担を免れることは容易ではありません。
おわりに
以上の検討から明らかなように、日本の相続税が高いか否かは、単に税率の水準のみで判断できる問題ではありません。課税ベースや控除制度、富裕層課税の在り方、さらには国際的な税制の違いを総合的に考慮する必要があります。
また、税制は各国の社会的・経済的背景に基づいて設計されるものであり、その評価には多角的な視点が不可欠です。したがって、日本の相続税についても、個別の事例や税率の印象にとらわれることなく、制度全体を踏まえた冷静な議論が求められます。
矢内一好
国際課税研究所
首席研究員
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