「誰にもバレずに解決できる」…全財産300万円が消えた瞬間
誰にも知られずにトラブルを解決できるという心理が働き、ケンタさんは男の指示するまま、指定された銀行口座へ全財産である300万円分を即座に送金してしまったのです。
送金完了の通知画面を見た直後、電話は一方的に切れました。インターネットバンキングでの即時送金は、あっという間に別の口座へ資金が移されてしまうため、取り戻すのが極めて困難です。
静まり返った休憩室で我に返ったケンタさんは、自分がとんでもない詐欺に引っかかったことにようやく気づきましたが、ときすでに遅し。
「俺の全財産300万円が……。なんで、なんでタップしてしまったんだ……!」
固定電話を持たない人にとって、スマートフォンは社会との唯一の接点であると同時に、誰も止めてくれない孤独な密室空間にもなり得るのです。
被害額1,400億円超…スマホで実行される特殊詐欺の実態
警察庁が発表した「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」のデータを見ると、ケンタさんのような被害が客観的な数値として裏づけられています。
令和7年の特殊詐欺の認知件数は2万7,758件、被害額は1,414.2億円にのぼり、前年と比較して増加しています。そのなかでも特筆すべきは、犯行グループからの接触ツールについて、携帯電話を使用する割合が前年の2.2倍へと急増している点です。20代から50代の現役世代においては、固定電話よりも携帯電話を入り口とした被害が圧倒的に多くなっています。
さらに、犯行グループが接触を図る「予兆電話」の件数は年間33万件を超えています。犯行に利用された電話番号全体のうち、実に75.5%を国際電話番号が占めており、ケンタさんのように、見知らぬ国際電話番号からの着信に出てしまい、そのまま巧みな話術で追い詰められるケースがあとを絶ちません。
被害金の交付形態としても、手渡しの現金ではなく、インターネットバンキングや暗号資産を用いた非対面での送金が急増しています。特殊詐欺において暗号資産が使われるケースが前年比で爆発的に増加しているのと同様に、インターネットバンキングを利用した即時送金の被害も深刻な状況が続いています。
スマートフォンの操作に慣れている若年層は、銀行の窓口などで第三者の目が入る機会がないため、焦燥感に駆られたまま自らの手で高額な送金を完了させてしまう危険性が極めて高いといえます。
皮肉にもデジタルツールの利便性が詐欺被害を加速させる要因となっているのが、現代の特殊詐欺の実態です。
[参考資料]
警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)」
