(※写真はイメージです/PIXTA)

地方移住は、住居費の軽減や穏やかな暮らしを求めて選ばれることが多い選択です。内閣官房・内閣府『東京圏、地方での暮らしや移住及び地方への関心に関する意識調査(令和2年)』でも、「自然環境の良さ」や「生活コストの低さ」が移住の主な理由として挙げられています。一方で、移住後の課題として「医療・交通の不便さ」や「生活環境のギャップ」を感じる人も少なくありません。時間の経過とともに、その影響が顕在化するケースもあります。

老後に求めた“安心して暮らせる場所”

転機となったのは、健一さんが軽い体調不良で倒れたときでした。幸い大事には至りませんでしたが、救急搬送までに時間がかかり、紀子さんは強い不安を感じたといいます。

 

「この場所で何かあったとき、自分たちだけで対応できるのかと初めて現実的に考えました」

 

その出来事をきっかけに、2人は初めて「移住の継続」について話し合いました。

 

「ここでの生活は嫌いじゃない。でも、この先も続けられるかは別だと思ったんです」

 

さらに、人間関係の変化も影響していました。移住当初に交流のあった近隣住民も、高齢化や転居により顔ぶれが変わり、かつてのようなつながりは薄れていたのです。

 

「知っている人がいなくなっていく感覚がありました」

 

20年という時間は、環境だけでなく人間関係も大きく変えていたのです。

 

最終的に夫妻が出した結論は、「都市部への再移住」でした。

 

「最後は、安心して暮らせる場所を選びたいと思いました」

 

現在は、駅に近い賃貸マンションへの転居を進めています。医療機関やスーパーが徒歩圏内にあり、車がなくても生活できる環境です。

 

「若い頃は自然の豊かさを求めていました。でも今は、“すぐに頼れる場所がある”ことの方が大事だと感じています」

 

地方移住は、多くの魅力を持つ選択です。しかし、その価値は年齢や生活段階によって変化します。

 

「移住したこと自体は後悔していません。でも、“ずっと住み続ける前提”で考えていたのは甘かったかもしれません」

 

そう語る健一さんの言葉には、長い時間を経て得た実感がにじんでいました。

 

老後の拠点は、一度決めたら終わりではありません。体力、医療、交通、人との距離――それらすべてを踏まえて、変化に応じて選び直すことが、現実的な備えなのかもしれません。

 

 

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