「大丈夫そう」に見えても…独居高齢者の生活に潜む危険
「妙だな…」
玄関のドアを開けた瞬間、光一さん(仮名・55歳)はそう感じたといいます。
久しぶりの帰省は、実に1年ぶりでした。母の和子さん(仮名・82歳)は、父の死後も一人で暮らしを続けており、電話では「元気よ、大丈夫」と繰り返していました。
年金は月約14万円。持ち家で家賃負担はなく、生活は「質素だけど問題ない」と本人も家族も認識していました。
しかし、玄関に足を踏み入れた瞬間、どこか違和感があったのです。
靴が乱雑に置かれ、床にはうっすらと埃が積もっていました。以前はきちんと整えられていた空間です。
「掃除が行き届いていないというより、手が回っていない感じでした」
居間に入ると、その違和感はさらに強まります。
テーブルの上には開封されたままの郵便物が積み重なり、キッチンには洗い物が残ったまま。冷蔵庫を開けると、中身はほとんど空に近い状態でした。
「生活が止まりかけているという印象でした」
それでも、和子さん本人はいつも通りの様子でした。
「来てくれたのね。急にどうしたの?」
その表情に大きな変化はなく、会話も一見すると普通です。
「電話で聞いていた通り、“元気そう”ではあったんです。でも家の中の状態が、それと合っていなかった」
光一さんは、そのギャップに戸惑ったといいます。
総務省統計局『家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要』によると、65歳以上の単身無職世帯は平均で月約3万円の赤字となっており、生活維持には家計管理と日常生活能力の両方が求められます。どちらかが崩れると、暮らしは急速に不安定になります。
「食事はちゃんととれてるの?」
そう聞くと、和子さんは少し間を置いて答えました。
「うん、簡単なものをね」
しかし、その“簡単なもの”が何なのか、具体的には出てきませんでした。
その夜、光一さんは冷蔵庫の中にあった賞味期限切れの食品を見つけます。さらに、未開封のまま放置された薬もありました。
