積み上がる生活費と削られる老後資金…「限界」に直面した日
総務省統計局『家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要』によると、65歳以上の単身無職世帯の可処分所得は11万8465円、消費支出は14万8445円。高齢単身世帯はもともと収支に余裕があるとは言いにくく、そこに同居家族の生活費負担が重なれば、家計が急速に傷むのは不自然ではありません。
「私は年金が17万円あるから、世間から見れば“まだ大丈夫”なのかもしれません。でも、3人で暮らせば全然足りません。足りない分を貯金から出して、また次の月も出して……。ずっとそれの繰り返しでした」
ある日、美智子さんは通帳の残高を見て、しばらく動けなくなりました。夫が残してくれたお金が、思っていた以上の速さで減っていたのです。
「自分の葬儀代くらいは残せると思っていたのに、それも怪しくなってきた。何より、この先、私が倒れたらこの子たちはどうするのかと思ったら、急に怖くなりました」
その夜、夕食の席で美智子さんは初めて言いました。
「もう、これ以上は支えられないよ」
長男は黙ったまま、箸を置きました。次男は「今さら何だよ」と顔をしかめました。
それでも美智子さんは、言葉を続けるしかありませんでした。
「私はもう81歳なの。あなたたちの母親ではあるけど、ずっと面倒を見続けることはできないの」
話し合いは、すぐに前向きには進みませんでした。
「働けと言われても、今さら無理だ」
「外に出るのがしんどい」
「こんな年で仕事なんかない」
息子たちから返ってきたのは、そんな言葉ばかりでした。もっと早く向き合うべきだったのではないか。甘やかしてきた自分にも責任があるのではないか。美智子さんは何度もそう考えたといいます。
内閣府『令和7年版 高齢社会白書』によると、65歳以上の者のいる世帯のうち20.2%が「親と未婚の子のみの世帯」です。こうした世帯構成自体は決して珍しいものではなく、親が高齢になっても子どもと同居を続けるケースは一定数存在しています。
ただし、その中で子どもが就労していない場合、家計や生活の負担が親に偏りやすく、問題が表面化しにくいまま長期化する傾向も指摘されています。
