熟年離婚する夫婦の共通点
田村さんと同じように定年後、熟年離婚に至る夫婦は増えています。厚生労働省の人口動態統計によると、婚姻期間20年以上の夫婦の離婚、いわゆる熟年離婚は年間約3万8,000組にのぼります。離婚全体に占める割合も約20%と、5組に1組が長年連れ添った末に別れを選んでいる計算です。
では、なぜ定年後に離婚が増えるのでしょうか。筆者がこれまで相談を受けてきたなかでみえてくるのは、「お金の話を夫婦でしてこなかった」という共通点です。
田村さんも例外ではありませんでした。現役時代、家計はすべて美恵子さん任せ。田村さんは自分の給与明細すら、ほとんど確認したことがなかったといいます。
「給料は全額、家用の口座に入れてたんです。小遣いは月5万円もらって、それで十分だと思ってた」
一見すると、「家庭を顧みない夫」とは違うように聞こえます。しかし問題は、田村さんが「家計を任せる」といいながら、家庭の運営に一切関心を持たなかったことにありました。子どもの教育費がいくらかかったのか。住宅ローンの繰上げ返済をどうやりくりしたのか。老後資金としていくら貯めてあるのか。なにひとつ、把握していなかったのです。
さらに見逃せないのが、年金分割の問題です。2007年の法改正以降、離婚時には厚生年金の分割が認められるようになりました。田村さんの場合、婚姻期間中の年金記録が按分され、年金受給額は月額で約4万円減ることが見込まれます。65歳から受給開始として月額約18万円だったものが、分割後は約14万円。家賃や食費、光熱費を差し引くと、ほぼ手元に残りません。
総務省の家計調査(2023年)によると、65歳以上の単身無職世帯の平均消費支出は月額約14万5,000円です。田村さんの年金収入14万円では、毎月数千円から1万円近い赤字。しかも、この平均には持ち家世帯が多く含まれています。賃貸暮らしの田村さんの場合、家賃を上乗せすれば赤字幅はさらに大きく膨らみます。退職金の残りを取り崩しながら生活する日々が、確実に待っています。
「年金がこんなに少なくなるなんて、正直知らなかったんです。分割って言葉は聞いたことあったけど、自分に関係あるとは思わなかった」
田村さんはそう肩を落としました。

