65歳夫の長年の夢に、妻の冷めた一言
「老後は地元に帰って、畑でもやりながらのんびり暮らしたいんだ」
そう語るのが口癖だったのは、都内のメーカーで働いてきた会社員のBさん(65歳・仮名)です。出身は東北地方の山あいにある小さな町。高校卒業後に上京し、大学進学と就職を機にそのまま東京で暮らしてきました。
結婚した妻のC子さん(63歳)は九州出身。こちらも若い頃に上京しており、夫婦は都内で長く生活を築いてきました。二人の子どもはすでに独立しています。
Bさんは「老後は地元に帰る」とよく話していました。空気の澄んだ山、静かな集落、畑仕事。都会の喧騒とは無縁の生活。すでに両親は他界し実家もありません。それでも帰巣本能なのか、その夢が消えることはありませんでした。
「東京なんて老後に住むところじゃないよ。俺の地元ならお金もそんなにかからないし、ゆったり暮らせる」
そう話すBさんに、妻もとくに反対する様子はありませんでした。むしろ「いいわね、畑なんて楽しそう」と笑っていたこともあり、Bさんは「老後は二人で移住するものだ」と疑いもしなかったといいます。
しかし、65歳で定年退職し、いよいよ移住の計画を本格的に立てようとすると、思いもよらない言葉が返ってきました。
「……あなた一人で帰ればいいじゃない。私は行きません」
突然の言葉に、Bさんは耳を疑いました。
