3. 体力のある大企業ばかりが恩恵を受けるーー経済学が語る「無駄遣い」
では、どの企業がこの税制を利用しているのでしょうか。財務省財務総合政策研究所の分析によると、主な受益者は収益性が高く、手元に十分な現金を持つ大企業でした。
つまり、自力で十分に賃上げできる企業が、税制によって「いずれにせよ実行する行動」に報奨金を受けている状態です。この状況は経済学でいう「死荷重(デッドウェイト・ロス)」の典型例であり、税金の無駄遣いといえます。
政府もこの機能不全を認識しており、2025年度の税制改正案では、賃上げを設備投資減税の要件に加えるなど、単体での効果が限定的であることを事実上認めています。
4. 減税額の半分が大企業へーー透明性を欠く「ブラックボックス」
「賃上げ促進税制」は、総額9.5兆円にも上る「租税特別措置法」の一部です。この制度全体では、国会審議を経ない「隠れ補助金」として、減収額の総額が約9.5兆円に達し、国の一般会計税収の約13%に相当します。
恩恵の配分は以下のように偏っています。
・大企業向け:減税額の半分
・中小企業向け:全体の1割
たとえば、研究開発税制で大企業は年間9,479億円の減税を受ける一方、中小企業の軽減税率による減税額は1,811億円にとどまります。さらに、受益企業名や金額は一切非公開であり、特定企業や団体と政治献金が結びつく「政治銘柄化」の温床となっています。
5. 赤字の中小企業は対象外ーー支援の必要な企業が見捨てられる矛盾
最も賃上げ支援を必要とする赤字の中小企業は、この制度の対象外です。理由は単純で、税額控除は法人税から差し引く仕組みであるため、赤字企業はそもそも対象にならないのです。
その結果、黒字の大企業は税金で優遇され、支援が必要な中小企業は置き去りにされます。この構図は、制度が格差是正どころか、企業間格差を拡大させる要因になっています。
まとめ
約9.5兆円という巨額の「隠れ補助金」は、必ずしも賃上げや経済活性化に直結していません。形だけの賃上げを助長し、体力のある大企業に偏り、支援が必要な中小企業を見捨てるこの制度は、私たちの税金の使われ方に警鐘を鳴らしています。
岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
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