「助けること」と「共倒れ」の境界線を引くために
筆者のもとにも、吉田夫妻のような相談は年々増えています。親の愛情と経済的合理性が真正面から衝突するこの問題に、簡単な正解はありません。しかし、ファイナンシャルプランナーとしてお伝えできることは明確です。「感情」と「家計」をわけて考えることが、家族を守る第一歩だということです。
まず、美穂さんのような状況にある方に必要なのは、家計の棚卸しです。収入と支出を可視化し、リボ払いの残高80万円については銀行系の低金利ローンへの借り換えを検討するか、自治体の多重債務相談窓口で任意整理などの選択肢も含めて専門家に相談し、金利負担を軽減する手立てを講じるべきです。加えて、児童扶養手当や就学援助制度、ひとり親向けの住宅支援など、行政の制度を最大限に活用することで、月に数万円単位での改善は十分に可能です。
次に、吉田夫妻の側にも「線引き」が求められます。同居を続けるのであれば、美穂さんに月5万円でもいいから生活費を入れてもらうこと。金額の多寡よりも、「自分も家計を支えている」という意識を持たせることが重要です。正雄さんは当初これを言い出せずにいましたが、筆者との面談の中でこう話してくれました。
「お金の話は娘にしにくい。でも、このままなにもいわなかったら、俺たちの介護費用がなくなる。それは美穂や孫にも迷惑をかけることになるんだよな」
まさにそのとおりです。親が自分自身の老後資金を守ることは、冷たいことではありません。むしろ、将来の介護や医療で子供に経済的負担をかけないためにも不可欠な判断です。
吉田夫妻のケースでは、美穂さんが正社員もしくは契約社員としてフルタイム勤務へ切り替え、月の手取りを18万円程度まで引き上げることを目標に据えました。あわせて児童扶養手当の申請を行うこと、そして1年以内に近隣の公営住宅への転居を目指すことを軸に、具体的な再建プランを作成しました。また、美穂さんには毎月5万円を生活費として家計に入れてもらい、吉田夫妻の貯蓄の取り崩しをゼロに戻すことを当面の目標としました。
家族を助けたいという気持ちは、なにも間違っていません。ただ、それが仕組みを伴わない「なんとなくの同居」になったとき、助け合いは共倒れに変わります。年金生活の親と経済的に困窮した子供。この構図は今や特別な話ではなく、多くの家庭で起こりうる「静かな危機」です。だからこそ、期限を決め、数字で語り、制度を使う。家族の情に流されず、かといって情を捨てるのでもなく、冷静に道筋をつけること。それが、家族全員を守る唯一の方法なのです。
波多 勇気
波多FP事務所 代表
ファイナンシャルプランナー
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