決定打になったのは「使わない部屋」と「階段」
夫婦が本格的に住み替えを考え始めたのは、夫がある日こう口にしたことがきっかけでした。
「二階、もうほとんど使ってないよな」
実際、寝室は一階に移しており、二階の子ども部屋は何年も閉め切ったまま。洗濯物を干す場所だけは二階のベランダにありましたが、それも次第におっくうになっていました。
その頃、近所では同年代の夫婦が相次いで家を売り、駅近のマンションや団地に移っていました。最初は「まだ早い」と思っていた石田さん夫妻も、空き部屋の増えた家の中で暮らすうちに、考えが変わっていきます。
「今は住めても、5年後、10年後は分からない。動けるうちに、暮らしやすい場所に移った方がいいんじゃないかと思ったんです」
最終的に夫妻が選んだのは、駅と病院、スーパーが徒歩圏内にある1DKの団地でした。築年数は古いものの、階段の負担が少なく、生活動線が短い。家賃も収入に見合った水準で、団地内には同世代の入居者も多かったといいます。
「部屋の広さは一気に縮みました。でも、生活はかえって楽になりました」
4LDKから1DKへの住み替えに、子どもたちや親戚は驚いたそうです。
「そこまで小さくしなくても」
「せっかくローンを払い終えたのに、もったいない」
そんな声もあったといいます。
ただ、夫妻にとって大事だったのは“家の大きさ”ではなく、“毎日を無理なく回せるかどうか”でした。使わない部屋を抱えたまま暮らすより、必要なものだけで足りる家の方が、老後には合っていたのです。
引っ越して最初の数日は、さすがに戸惑いもありました。荷物の多くは処分し、仏壇や思い出の家具をどこまで持ち込むかも悩んだといいます。
それでも生活が落ち着いてくると、妻はある変化に気づきました。
「前より掃除が早く終わるんです。洗濯も、移動も、全部が短い」
夫もまた、通院や買い物のたびに車を出す必要がなくなったことで、気持ちが軽くなったと話します。
「家のために暮らしていたのが、生活のために家を選び直した感じでした」
総務省『家計調査』によると、高齢夫婦のみの無職世帯は平均的に可処分所得より消費支出が上回っており、老後家計は決して余裕ばかりではありません。そうした中では、住まいの維持費や移動コストをどう抑えるかも大きな問題になります。
