両親が地方へ移住…半年後、娘が抱いた小さな違和感
「せっかくなら、元気なうちに好きな場所で暮らしたいと思って」
そう話していたのは、由紀子さん(仮名・45歳)の父・昭夫さんと母・弘子さん(ともに72歳)でした。夫婦は長年暮らした首都圏の分譲マンションを売却し、手元に残った1,700万円を元手に、地方の海辺の町に小さな中古住宅を購入しました。年金収入は夫婦で月21万円ほど。都市部より生活費も抑えられるだろうと考え、「ここなら穏やかに暮らしていける」と見込んでいたといいます。
移住した当初、夫婦はとても楽しそうでした。海まで歩いて行ける立地で、朝は散歩をし、昼は地元の魚を買って食べる。父は「満員電車もないし、せかせかしなくていい」と笑い、母も「毎日が旅行みたい」と娘に話していました。
由紀子さんも、最初はよい選択だったのだろうと思っていたそうです。都内に住み続ければ管理費や修繕積立金もかかるし、老後の生活費を考えれば、身の丈に合った住み替えにも見えました。
ところが、移住から半年ほどたった頃、久しぶりに両親の家を訪ねた由紀子さんは、玄関を入った瞬間に小さな違和感を覚えました。
家の中は片付いていましたが、どこか生活の勢いがなくなっていたのです。窓際には洗濯物が取り込まれないまま置かれ、テーブルの上には同じ病院の診察券が何枚も重なっていました。冷蔵庫には干物や漬物、総菜が並んでいる一方で、生野菜や肉はほとんど見当たりません。流しの脇には、未開封のレトルトのおかゆがいくつも積まれていました。
「どうしたの、最近こんな感じなの?」
そう聞くと、母は少し笑って「近くのスーパー、小さくてね。まとめて買うと、だいたい同じものになるのよ」と答えました。父も「まあ、食べてるから大丈夫だよ」と取り繕うように言いましたが、以前より明らかに食卓が単調になっていることはすぐに分かりました。
さらに気になったのは、父の車でした。海辺の町では車がほぼ必須で、病院もスーパーも銀行も、日常生活の大半が車移動です。ところが父は、最近になって夜道の運転が不安になり、雨の日は運転を控えるようになっていたといいます。母はもともと運転に自信がなく、移住後はほとんどハンドルを握っていませんでした。
