久しぶりの帰省で見えた父の食生活
「心配するな。ちゃんと食べているから」
そう電話口で話していたのは、地方都市で一人暮らしをしている父・武雄さん(仮名・73歳)でした。妻を亡くしてから3年。長年暮らしてきた持ち家で、一人の生活を続けています。
娘の真理さん(仮名・45歳)は、離れた都市で家庭を持って暮らしており、頻繁に帰省することはできません。普段は月に数回、電話やLINEで連絡を取り合う関係です。
電話で話す限り、父はいつも元気そうでした。
「ちゃんと食べているの?」
真理さんがそう聞くと、父は決まってこう答えます。
「食べているよ。心配するな」
その言葉を聞くたびに、真理さんも「まあ大丈夫でしょう」と気楽に考えていたといいます。
ある週末、真理さんは久しぶりに実家を訪ねました。玄関を開けると、父はいつも通りの様子で迎えてくれました。
「急にどうしたんだ」
「たまには顔を見に来ようと思って」
そんな何気ない会話をしながら台所に入ったとき、真理さんは小さな違和感を覚えます。冷蔵庫の扉を開けた瞬間、その理由が分かりました。
中には、半分ほど残った牛乳と、開封済みの漬物、卵が数個あるだけでした。野菜や肉、作り置きの料理は見当たりません。
「お父さん、これしかないの?」
思わず聞くと、父は少し照れたように笑いました。
「まあ、買いに行けばいいんだよ」
しかし台所を見回すと、調理をしている形跡はほとんどありませんでした。コンロはきれいなまま。シンクには洗い物もほとんどありません。
代わりに、棚にはカップ麺やレトルト食品がいくつか並んでいました。
「最近何食べてるの?」
そう聞くと、父は少し言葉に詰まりました。
「まあ……簡単なものだな」
よく聞くと、朝は食べない日も多く、昼はカップ麺か菓子パン、夜はご飯と漬物だけ、という日もあるといいます。
「一人だと、作る気がしなくてな」
武雄さんはそう言って、少し申し訳なさそうに笑いました。
妻が亡くなる前は、毎日きちんと食事が用意されていました。しかし一人暮らしになってから、料理をする習慣は次第になくなっていったといいます。
