「まだ大丈夫だと思っていた」が崩れた夜
健一さんは以前から、母の変化をまったく感じていなかったわけではありません。電話の途中で同じ話を繰り返すことが増え、買い物したはずのものを「家にない」と言うこともありました。ただ、そのたびに「年のせいだろう」と受け流してきたといいます。
しかし、深夜の台所で焦げた鍋の前に座る母の姿を見たとき、その認識は変わりました。
認知症やMCIは、突然すべてができなくなるのではなく、調理や服薬管理、金銭管理といった生活の一部から支障が現れることがあります。家族が“異変”として認識するころには、日常生活に一定の影響が出ている場合もあります。
翌日、健一さんは母を連れてかかりつけ医を受診し、その後、地域包括支援センターにも相談しました。すぐに認知症と断定されたわけではありませんが、生活機能の低下が見られるとして、介護保険の申請や見守りサービスの検討を勧められたといいます。
介護保険制度では、要支援・要介護認定を受けることで、訪問介護や通所介護などのサービス利用につながる可能性があります。また地域包括支援センターは、高齢者本人や家族からの生活相談の窓口として位置づけられています。突然の入院や大きな事故が起きる前に、こうした支援につながることが重要になる場合があります。
和子さんは当初、「私はまだ大丈夫」「大げさにしないで」と抵抗したそうです。それでも健一さんは、台所の光景が頭から離れなかったといいます。
現在、和子さんは実家を離れ、息子夫婦の家の近くにある高齢者向け住宅への入居を待ちながら、当面は短期的に家族の見守りを受ける生活に切り替えています。鍋を火にかけることは減り、買い物も一人では行かなくなりました。
「あの電話がなかったら、どうなっていたか分かりません」
離れて暮らす親の異変は、小さな生活の乱れとして現れることがあります。そしてその小さな乱れは、ときに家族にとって重いサインになるのです。
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