(※写真はイメージです/PIXTA)

家族の介護が始まると、多くの人が「いまの生活をどう維持するか」という現実に直面します。特に独身世帯や一人っ子にとって、親の介護費用の負担は死活問題です。しかし、認知症や関係性の悪化によって「話し合い」すら困難になったとき、個人の努力だけでは防げない経済的破綻のリスクが忍び寄ります。本記事では、社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏がAさんの事例とともに、介護離職の本当の怖さについて解説します。※事例は、プライバシーのため一部脚色して記事化したものです。

介護離職の厳しい現実

厚生労働省の「雇用動向調査」によると、2024(令和6)年に離職した人は約719.5万人、「介護・看護」を理由とする人は約9.3万人(男性約3.4万人、女性5.9万人)で、女性が約63%を占めています。さらに女性のなかでも「55歳から59歳」が最も多くなっています。 

 

厚生労働省「令和4年 国民生活基礎調査」では、同居の主な介護者は配偶者(女性)45.7%に次いで子(女性)が18.5%を占めています。Aさんのようなケースは、決して珍しいことではありません。介護は長期化しやすく、仕事と介護の両立や心身の負担(ストレス)が重くのしかかってくるのです。

「年金を奪うのか!」娘の貯金を蝕む母の執着

Aさんは、元来大人しい性格で、これまで親の言うことに黙って従って生きてきた女性です。

 

無職になったAさんは、自分の貯金を切り崩して生活していました。一方で、母には老齢年金と遺族年金を合わせて年額約220万円の収入があります。そんななか、母は「今日はイチゴが食べたい、まんじゅうが食べたい」と主張します。

 

「私の貯金も底をついてしまう。少しでいいから生活費を出してほしい」意を決して頼んだAさんに、母が放った言葉は残酷でした。

 

「私の年金を奪うのか」

 

このままでは近い将来、Aさんの貯蓄は底をついてくるでしょう。Aさんは不安な毎日を過ごしていました。働かなければ生活できないため、Aさんはアルバイトを始めます。地域包括支援センターに相談し、なんとか母と話してもらい介護認定を受け、週2回のデイサービスにいってくれるようになったからです。週2回のアルバイト収入月7万円に、在宅でできる仕事を合わせても月12万円です。心身ともに限界はとうに超えていました。

決別の日…通帳紛失事件

母がいきなりAさんに怒ってきました。その日は偶数月の15日で年金が振り込まれる日でした。母は「振り込まれる通帳がない! お前が隠しているんだろう! いつもしまっている場所にない!」といいます。必死に否定しても聞き入れられず、涙を流すAさん。

 

夜になって、母は自分のバッグの中から通帳をみつけると、謝るどころかこう言い放ちました。「わざと置き場所を変えて嫌がらせをしたんだろう」母はAさんを散々罵ったあと、就寝しました。

 

――ああ、もう無理だ。こんな毎日があと何日、何年続くのだろうか……。プツンと、糸が切れる音がしました。

 

Aさんは、デイサービスの送迎の担当者に「親を捨てる娘だと、罵ってくれていいです。私はこの家には戻りません。母を施設に入れてください」と書置きし、夜逃げのように出ていきました。

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