独身男性(51)が「早期退職」を選んだ理由
「昼過ぎに起きて、ビールを飲みながら好きな映画を見る。これ以上の幸せはありませんよ」
そう語るのは、遊田さん(仮名・51歳)。昨年まで、大手精密機器メーカーで開発エンジニアとして働いていました。年収は約850万円。独身で、給料の大半を趣味や貯蓄に回せる生活でしたが、会社という組織には常に息苦しさを感じていました。
「技術職なのに、管理職への昇進を打診されたり、若手の教育係を押しつけられたり。飲み会の付き合いも苦痛で仕方ありませんでした。『もっと自分の好きなことだけに時間を使いたい』とずっと思っていました」
転機は、会社が発表した早期退職の募集でした。対象は45歳以上。通常の退職金に加え、月給の36カ月分が上乗せされる好条件です。計算すると、手元に残る退職金は約3,000万円。これまでの貯蓄2,500万円と合わせれば、資産は5,500万円になります。
「5,500万円あれば、年金受給開始の65歳まで年間300万円使ってもお釣りがきます。賃貸ですが、独り身なので広さは必要ないし、最悪もっと安いアパートに引っ越せばいい。迷わず書類にハンコを押しました」
同僚たちは「早すぎる」「独りでどうするんだ」と心配しましたが、遊田さんにとって会社はストレスの源泉でしかありませんでした。退職日、花束を受け取りながら心のなかでガッツポーズをしたといいます。
5,500万円を引っさげて「自由」を手にした結果…
退職して1年。現在は、現役時代にはできなかった長期間のバイク旅に出たり、一日中ゲームに没頭したりと、自由を謳歌しています。再就職の予定はまったくありません。
「結婚していたら、教育費だの家のローンだので、こうはいかなかったでしょうね。家族を持たないことが、ここでは最強の武器になりました。寂しさ? まったくありません。むしろ、煩わしい人間関係から解放された今のほうが精神的に安定しています」
遊田さんは、資産運用で少しずつお金を増やしながら、取り崩す生活を続けています。
「この5,500万円は、私が会社に捧げてきた30年の対価です。誰のためでもなく、自分のためだけにお金と時間を使える。独身でよかったと心から思っています」
社会的な地位や肩書きよりも、個人の自由と快楽を優先する。黒字リストラは、遊田さんのような独身資産家にとって、早期リタイアを実現する絶好のトリガーとなったのです。
独身男性の早期リタイアと資産形成
上場企業による「早期・希望退職募集」の人数は、2025年には1万7,875人に達しました。このなかで、遊田さんのような「独身・資産形成済み」の男性は、早期退職の恩恵を受けやすい層といえます。
東京商工リサーチのデータによれば、募集企業の約7割が黒字であり、多額の割増退職金が用意されています。家族がいる場合、教育費や住宅ローンがネックとなり退職を決断できないケースが多いですが、独身であれば自分一人の生活費さえ確保できればよいため、ハードルは格段に下がります。
ただし、自由には責任が伴います。インフレによる資産目減りや、将来的な介護リスクなどを見据えた資金計画があって初めて、真の「悠々自適」が成立します。その点を踏まえたうえで、自分の価値観にあった選択をしたいものです。
[参考資料]
東京商工リサーチ「2025年 上場企業『早期・希望退職募集』状況」
