(※写真はイメージです/PIXTA)

「管理職の経験があれば、どこでも通用するはず」と、自信とともに早期退職に応じた甘杉さん(仮名・54歳)。退職金の上乗せに惹かれて会社を飛び出し再就職を狙うも、彼を待っていたのは「不採用」の通知メールと、貯蓄がみるみる減っていく恐怖でした。黒字リストラに応募し、再就職の壁にぶつかって後悔の日々を送る50代男性の事例を紹介します。

「管理職なら即戦力」という甘い見込み

「本日も不採用通知が届きました。これで30社連続です。面接まで進めたのは、たった2社だけ」

 

そうつぶやくのは、甘杉さん(仮名・54歳)。半年前まで中堅の電子部品メーカーで課長職を務め、年収は900万円ほどありました。転機となったのは、会社が募集した早期退職制度です。

 

「50歳以上が対象で、通常の退職金に加えて特別加算金が出る条件でした。合計で3,200万円ほどになります。会社は黒字でしたが、私の部署が縮小される噂もあり、『窓際に追いやられるより、割増金をもらって新天地で活躍しよう』と考えたのです」

 

甘杉さんには、長年の管理職経験と取引先との折衝能力に自信がありました。退職金を元手にしばらく充電し、コンサルタントや中小企業の幹部として再就職できると楽観視していたのです。

 

しかし、現実は残酷でした。 

通帳の残高と共に削られていく家族の安らぎ

エージェントに登録しても、希望する「経営企画」や「管理職候補」の求人は、50代半ばの甘杉さんには紹介されません。回ってくるのは、未経験可の現場職や、最低賃金に近い事務職ばかりです。

 

「エージェントの担当者にいわれました。『甘杉さんのマネジメント経験は、御社の看板があったからできた仕事です。今の市場が求めているのは、プレイングマネージャーとして手を動かせる即戦力なんです』と」

 

再就職の難航は家庭も直撃しました。大学生の息子の学費がかさむなか、毎月40万円近くの生活費が出ていきます。3,200万円あった退職金も、将来への不安から使うに使えず、ただ通帳の残高が減る恐怖におびえる毎日です。

 

「先日、会社に残った元同僚と会いました。給料は下がったそうですが、『毎月給料が入る安心感は何物にも代えがたい』と笑っていました。あのとき、目先のお金に目がくらまなければ……」

 

甘杉さんは今、プライドを捨てて資格取得に向けた勉強を始めています。

1万7,000人が対象となった「早期・希望退職募集

2025年、上場企業による「早期・希望退職募集」の人数は1万7,875人に達し、前年比で約80%増という急激な増加です。この背景には、甘杉さんの勤務先のように、業績が堅調であっても将来を見越して人員整理を行う「黒字リストラ」の拡大が関係していると推測できます。

 

東京商工リサーチのデータによれば、募集を行った企業の約85%(人数ベース)が黒字企業でした。 企業側は「ネクストステージ支援」といった前向きな言葉で募集を行いますが、実態は50代以上の高年収層をターゲットにした人員削減であるケースが少なくありません。

 

甘杉さんのように「割増退職金」に魅力を感じて応募する人は多いですが、50代での再就職市場はシビアです。厚生労働省の統計などを見ても、50代後半の転職で年収が増加するケースは少なく、年収が大幅にダウンするか、非正規雇用での再就職を余儀なくされるパターンが多い傾向にあります。

 

「上乗せ金」は、退職後の年収減や空白期間を補填するための資金であり、決して余裕資金ではありません。会社という後ろ盾を失うリスクを冷静に見極めなければ、人生設計が大きく狂うことになりかねないのです。
 

[参考資料]

 東京商工リサーチ「2025年 上場企業『早期・希望退職募集』状況」

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