(※写真はイメージです/PIXTA)

退職後や相続などでまとまった資金を得たとき、「今の楽しみ」と「将来の安心」のどちらに配分するかは多くの人が直面する課題です。金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(2023年)』では、60代単身世帯の金融資産平均額は1,468万円である一方、中央値は210万円にとどまり、老後資金に大きな余裕がある人ばかりではない実態が示されています。限られた資金をどう使うか――その選択は、後の暮らしに静かに影響します。

「後悔はない。でも怖い」

恵子さんはしばらくパートを続けるつもりだと言います。

 

「働けるうちはいいんです。でも70代になったらどうなるか」

 

医療費、家賃、生活費。将来の見通しは楽観できません。

 

「後悔しているわけじゃないんです。でも…怖いですね」

 

まとまった資金を一度に使う行動は、高齢期には珍しいものではありません。相続や退職金などの臨時収入は心理的に「余裕資金」と認識されやすい傾向があります。

 

しかし金融広報中央委員会の調査では、60代単身世帯の金融資産分布はばらつきが大きく、中央値は210万円にとどまります。多くの高齢単身者にとって、数百万円単位の資金は老後の安全余力そのものでもあります。

 

恵子さんの部屋には、旅先の写真が並んでいます。

 

「見返すと幸せな気持ちになります」

 

それでも彼女は現実を見据えています。

 

「今は、もう一度貯め直す時間だと思っています」

 

相続した400万円は消えました。しかし残ったものもあります。

 

「自分の人生を生きた、という感覚です」

 

老後資金は、安心のための資金でもあり、人生を使うための資金でもあります。どちらを選ぶかは、人それぞれの価値観に委ねられています。

 

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