「一度くらい、好きに使ってもいい」世界一周チケットを購入
都内で一人暮らしをしている恵子さん(仮名・63歳)は、2年前に母を亡くしました。相続した現金は約400万円。持ち家はなく、退職後はパート収入と将来の年金で暮らす予定でした。
「自分のためにまとまったお金を持ったのは初めてでした」
長年、家計は常に節約中心。旅行も国内の近場がほとんどだったといいます。そんなとき、テレビで世界一周航空券の特集を見ました。
「これなら行けるかもしれない」
調べると、複数の航空会社を組み合わせた世界一周航空券はルート次第で300万〜400万円台。思いが現実味を帯びました。
「一度くらい、好きに使ってもいいんじゃないかと思ったんです」
恵子さんは決めました。相続した400万円の大半を使い、世界一周チケットを購入したのです。
旅は半年に及びました。ヨーロッパ、北米、南米、オーストラリア、アジア。若い頃から憧れていた都市を巡りました。
「毎日が非日常でした。人生で一番自由な時間だったと思います」
現地ツアーや食事、宿泊費を含め、総額は約420万円。相続した約400万円に自己資金を加えました。帰国後も、しばらくは高揚感が続きました。
「行ってよかったと心から思いました」
しかし数ヵ月後、現実が静かに戻ってきます。恵子さんは63歳で、65歳を待たず年金を繰り上げ受給していました。月約11万円の年金に、月7〜8万円のパート収入を足しても、生活費はぎりぎり。旅の余韻とは裏腹に、日常の家計は静かに逼迫していきました。
「旅行中は考えないようにしていたんです」
帰国後、通帳残高はほぼゼロ。老後資金の蓄えはほとんど残っていませんでした。
「急に不安になりました」
