提出件数1万4,544件、総額8兆円超へ拡大
令和6年分の国外財産調書(令和7年6月30日までに提出されたもの)がこのほど公表された。それによると提出件数は1万4,544件となり、前年の1万3,243件から1,301件増加した。総財産額は8兆1,945億円と、前年の6兆4,897億円から1兆7,048億円増加している。
この増加は一時的なものというより、海外資産保有の裾野が広がっている構造的な変化を示していると見るべきだろう。為替環境や海外株式市場の動向も影響していると考えられるが、それ以上に、資産分散の手段として海外金融資産が定着している点が大きい。
東京局が8割超――首都圏に集中する海外資産
国税局別にみると、提出件数は東京局9,262件(63.7%)、大阪局2,094件(14.4%)、名古屋局933件(6.4%)、その他2,255件(15.5%)となっている。
財産額ベースでは東京局が6兆6,047億円と全体の80.6%を占め、前年より1兆5,152億円増加した。大阪局は7,200億円(8.8%)、名古屋局は3,005億円(3.7%)、その他は5,694億円(6.9%)だった。
国外資産の大半が首都圏に集中している構図は明らかであり、富裕層の海外投資行動が地理的にも偏在している実態が浮き彫りになった。税務行政の視点から見れば、重点的なモニタリング対象がどこにあるのかは自ずと明確になる。
有価証券が約7割――金融資産偏重の構造
財産の種類別内訳を見ると、有価証券が5兆4,817億円と全体の66.9%を占める。預貯金8,817億円(10.8%)、建物5,397億円(6.6%)、貸付金2,618億円(3.2%)、土地1,686億円(2.1%)、それ以外の財産8,611億円(10.5%)と続く。
国外資産の中核が金融商品であることは明白であり、海外株式、ETF、ファンド、外国債券などを活用した運用が主流である。これは為替変動や海外市場の価格変動に大きく左右される資産構造であり、評価額の変動がそのまま申告内容にも影響する。
富裕層にとっては、運用成果と同時に、評価方法や為替換算の適正性まで含めた管理体制が問われることになる。
軽減221件、加重366件――実地調査が示す現実
国外財産調書制度では、提出された調書に記載された国外財産に係る申告漏れがあった場合、加算税が5%軽減される。一方、調書の未提出や未記載財産に係る申告漏れが判明した場合には、加算税が5%加重される仕組みが設けられている。
令和6事務年度の所得税および相続税の実地調査の結果、軽減措置の適用は221件で、増差所得等金額は57億円だった。これに対し、加重措置の適用は366件、増差所得等金額は170億円にのぼる。
件数・金額ともに加重措置が上回っている事実は、未提出や記載漏れが決して例外的な問題ではないことを示している。
CRS時代のコンプライアンス経営
国際的な金融口座情報の自動交換制度(CRS)の整備により、海外口座情報は各国税務当局間で共有される体制が確立している。海外資産を「把握されない資産」とみなす発想は、もはや現実的ではない。
とりわけ事業承継や相続を見据える資産家にとって、国外財産の存在は評価・把握・申告の各局面で複雑性を増す要因となる。確定申告との整合性、相続時の評価資料の保存、家族への情報共有など、管理体制の整備が不可欠だろう。
攻めと守りを両立できるか
海外分散投資は、通貨リスクの分散や資産保全の観点から合理的な戦略であるとの声がある。しかし、税務管理が追いつかなければ、その資産は潜在的なリスクにもなり得る。
総財産額8兆円という数字は、日本の富裕層の資産行動が一段と国際化していることを示すと同時に、税務行政の監視体制も高度化している現実を映し出していると言えなくもない。攻めの資産運用と守りの税務戦略をいかに両立させるか――それが、これからの富裕層に求められる重要なテーマとなるだろう。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
\3月20日(金)-22日(日)限定配信/
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