1円を削る日常と、募っていく「節約の息苦しさ」
「スーパーのレジ横にある100円の団子さえ我慢しているのに、3万円もするサプリメントの購入ボタンを迷いなく押してしまったのか……」
サプ里錠子さん(仮名・62歳)は、スマホの購入履歴画面を見つめてため息をつきました。
夫と二人暮らしのサプ里さんは、週に数回のパートで月8万円の収入を得ています。このお金は「自分のための自由な資金」や「将来の備え」にするはずでした。
「でも、ここ最近の物価高で生活費が厳しくなってきて、自分のパート代から少しずつ家計に補填するようになったんです」
少しでも食費を浮かすために、スーパーでは特売品ばかり買っています。しかし、これだけ切り詰めても、光熱費や日用品の値上がりで節約分はすぐに吹き飛びます。
終わりが見えない我慢の日々に、サプ里さんは「やり場のない息苦しさ」を感じるようになりました。
「健康への投資」という大義名分が生んだ3万円のサブスク
そんなサプ里さんの張り詰めた心を狂わせたのは、スマホから流れてきた「一生自分の足で歩ける体を作る」というサプリメントの広告でした。
「もし私が病気で倒れたら夫に負担がかかるし、独立した子どもにも頼れない。今、健康に投資するのは家族のためでもあるんだ」
1円を削る日々に疲れ果てていたサプ里さんにとって、それは節約の息苦しさから抜け出すための、もっともらしい「大義名分」でした。クレジットカード決済の手軽さも相まって「初回限定500円」の文字に惹かれ、気づけば成分が似たような3種類のサプリメントを定期契約してしまいます。
「3回継続が条件なんて、小さい文字は見落としていました……」
毎月3万円、大切なパート代の半分近くが消える計算です。次々と届いたサプリメントの箱を夫の目を盗んで受け取り、サプ里さんはようやく我に返りました。
「サプリ代を払うために、明日からもっと食費を削らないといけないなんて……」
将来の不安を払拭するためにお金を使った結果、さらに日々の食卓が貧相になるという、本末転倒な状況に後悔の念をこぼしました。
「似たようなものの重複買い」とキャッシュレスの罠
サプ里さんの事例は、終わりの見えないインフレのなかで現代シニアが抱える「消費のジレンマ」を象徴しています。
ハルメクが発表した「お金に関する意識・実態調査2025」によると、お金の使い方への満足度は前年比で9.3ポイント急落し、48.2%にとどまっています。特にサプ里さんのような60代前半の層で、その低下が顕著でした。
さらに同調査の「最近無駄遣いだと感じた支出」という自由回答では、「クレジットカード支払いだと、つい余計なものを買ってしまう」「同じようなものを持っているのに買ってしまう」というリアルな声が多く寄せられています。
サプ里さんのように、普段は現金の重みを痛感している節約家であっても、スマホ通販やクレジットカード決済になると、出費している感覚が薄れます。そこに「健康を守るため」という自己正当化が加わることで、似たような成分のサプリメントを重複して定期契約してしまう衝動買いにつながる可能性が考えられます。
健康やお金といった将来の不安をなくそうと焦るあまり、冷静な判断を失って現在の生活を苦しめてしまう。データからは、そんなシニア世代の葛藤が読み取れます。
[参考資料]
株式会社ハルメクホールディングス「お金に関する意識・実態調査2025」
