夫婦の間に生まれた“温度差”
問題は、お金そのものよりも「感覚の差」でした。
健一さんは節約志向に戻り、外食や買い物を減らし始めます。一方、和子さんは「せっかく経験した楽しさ」を手放したくありませんでした。
「また近場でも旅行したいね」
「いや、もう控えよう。貯金も減ったし」
同じ旅行を経験したはずなのに、帰国後の価値観は少しずつズレていきました。老後の資産は、一度使えば戻りません。平均寿命を考えると、60代後半はまだ老後の入口に過ぎません。
厚生労働省『令和6年簡易生命表』によれば、65歳時点の平均余命は男性約19年、女性約24年。60代後半でも20年前後の生活期間が想定されます。
400万円は、月3万円の補填でも約11年分に相当します。旅行で短期間に使ったことで、長期の安心資金が減った形になりました。
ある日、健一さんが言いました。
「これからは、少し生活を見直そう」
それは責める言葉ではなく、現実を受け止める提案でした。和子さんは頷きました。
限られた資産を「思い出」に使うことは間違いではありません。しかし、その後の生活設計とのバランスが崩れると、不安や葛藤が生まれます。
老後資金の使い方には正解がありません。ただ一つ確かなのは、「使う喜び」と「残す安心」は、同時には最大化できないという現実です。帰国後に訪れた静かな変化は、贅沢の代償というより、「人生の優先順位」を問い直す時間だったのかもしれません。
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