(※写真はイメージです/PIXTA)

税務調査では、最初に何がチェックされるのか。売上除外か、架空経費か、交際費の過大計上か…? 経営者が最初に思い浮かべるのはこのあたりだろう。しかし、実際の税務調査の現場では、意外なところから調査が始まるという。それが「社長の愛人」だ。まさかと思うかもしれないが、これは税務実務においてきわめて合理的な着眼点だ。背景には「特殊関係使用人給与」という、企業経営にとって極めて重大な税務論点が存在する。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

社長の愛人関係の確認は、税務調査の初動の「定番中の定番」

税務調査の現場を熟知する複数の税理士や元国税調査官に取材すると、ほぼ共通した見解が返ってくる。

 

「社長の愛人関係は、税務調査の初動において、多くのケースで確認される、定番中の定番項目です」

 

その理由は以下のように明確である。

 

●架空人件費に化けやすい

●私的支出を会社経費に付け替えやすい

●役員給与認定、贈与認定、源泉徴収漏れなど、複数の課税論点が同時に発生しやすい

 

すなわち、1つの論点から複数の税務判断が派生しやすく、調査効率の観点から見ても極めて効果の高い対象なのだという。調査官にとって、これほど「費用対効果の高い論点」は、ほかに多くない。ここでいう「愛人」とは、税務実務上、経営者と私的に密接な関係にあるパートナー全般を指す。

「特別な人的関係にある者への支払い」に向けられる、厳しい目

企業のなかには、経営者が自身の愛人や内縁関係にあるパートナーを社員として雇用し、給与を支払っているケースも見受けられる。

 

表向きは「秘書」「事務」「経理補助」などの肩書を与え、形式上は一般社員と同様に扱われていることも少なくない。

 

しかし、税務署は、このような人間関係を極めて注意深く観察する。なぜなら、愛人や内縁関係の相手は、税務上「特殊関係使用人」に該当する可能性が高く、給与の取り扱いが一般社員とは根本的に異なるからだ。

 

税法は、会社と特別な人的関係にある者への支払いについて、厳しい目を向けている。そこには、「会社経費を装った私的支出」を防ぐという明確な政策意図があるからだという。

「特殊関係使用人」とは何か

税務上、「特殊関係使用人」とは、会社の役員や経営者と親族関係、またはこれに準ずる密接な関係にある使用人を指す。

 

法律上の配偶者に限らず、

 

●内縁関係の相手

●事実婚状態のパートナー

●生活費を共にしている人物

●実質的に家族同然の関係にある者

 

なども、実態次第では特殊関係使用人と認定される。

 

つまり、戸籍上は赤の他人であっても、生活実態や経済的関係が親族同様であれば、税務上は同等の扱いを受ける。

不相応に高額な給与は「損金にならない」

特殊関係使用人に対して支払われる給与は、その全額が自動的に経費として認められるわけではない。その職務内容や勤務実態に照らし、「不相応に高額」と判断された部分については、法人税法上、損金不算入とされる。

 

税務署は、次の要素を総合的に勘案して判断を行う。

 

●実際の業務内容

●出勤状況、勤務時間、業務成果

●会社の収益規模

●他の社員との給与バランス

●同業・同規模企業の給与水準

 

たとえば、簡単な事務作業しか行っていないにもかかわらず、月額80万円、100万円といった高額給与が支給されていれば、その相当部分は高い確率で否認されるという。

「愛人手当」は原則として否認対象

とりわけ問題となるのが、通常の給与とは別に支給される、いわゆる「愛人手当」だろう。

 

この種の手当は、業務対価としての合理性を説明することが極めて困難であり、税務上は原則として私的支出と認定される。

 

その結果、

 

法人税上、損金不算入

社長個人への給与認定

源泉所得税の追徴

社会保険料の遡及徴収

 

といった、税務・労務の両面で課税が連鎖的に発生する。

【裁決事例】愛人への支払い=「社長への給与」だった

この問題の本質を端的に示している裁決事例を紹介したい(国税不服審判所 平成15年1月15日裁決)。

 

この事案では、ある法人の実質経営者が、自身の愛人に対して「手当」名目で会社資金を支出していた。形式上は給与や手当として経理処理され、法人の損金に算入されていた。

 

これに対し、税務署は次のように判断した。

 

この支払いは、会社から愛人への給与ではなく、法人から実質経営者本人に対する給与を経由した私的支出である。

 

すなわち、

 

法人側:損金不算入

社長個人側:給与課税

 

という、いわゆる「二方向課税」が行われた。

 

国税不服審判所もこの判断を全面的に支持した。

 

法人が、実質経営者(みなし役員)の愛人に支払った金員は、法人から当該経営者に対する給与と認めるのが相当である。

 

この裁決は、愛人への給与や手当が、実質的に「社長個人への報酬」と認定される可能性が極めて高いことを明確に示しており、経営者にとって極めて重い警告といえよう。

実務上「今も頻発している」典型パターン

この種の問題は、決して過去の話ではないという。税務調査の現場では、現在進行形で頻発している。

 

特に多いのは、次の類型である。

 

パターン1

秘書・事務職として採用 → 実態勤務なし

→架空人件費

→全額否認+重加算税

 

パターン2

形式的に出社 → 業務実態なし → 高額給与

→特殊関係使用人給与

→相当額超過分を損金不算入

 

パターン3

愛人の生活費・住居費・旅行代を給与処理

→役員給与認定

→社長個人に所得税課税+源泉徴収漏れ

 

パターン4

愛人名義で外注費・業務委託費を計上

→架空外注費

→全額否認+重加算税

→悪質な場合は刑事告発に発展する可能性も否定できない

 

これらはいずれも、数千万円規模の追徴課税に発展するケースもあるという。

なぜ「愛人」は税務調査で優先的に狙われるのか

理由としては以下が挙げられる。

 

①金額が大きい

月50万~200万円クラスも珍しくない。

 

②私的支出を混ぜ込みやすい

住宅費、車両費、海外旅行、ブランド品、交際費など。

 

③証拠が残りやすい

給与台帳、銀行振込記録、クレジットカード明細、住民票、SNS上の公開情報など。

 

④内部通報が多い

配偶者、従業員、元愛人からの情報提供が非常に多い。

 

元国税OB税理士は、その理由について「調査官は、帳簿だけでなく、人間関係・生活実態・金銭の流れを立体的に組み立てていきます。『社員として雇っているから問題ない』という形式論は、ほとんど通用しません」と語る。

給与の一部否認で損金不算入なら、経営へのインパクトは甚大

特殊関係使用人給与が否認された場合、通常は過去3~7年分にさかのぼって修正申告が求められる。

 

その結果、

 

●過去数年分の法人税の追徴

●重加算税(最大40%)

●消費税の仕入税額控除否認

●社長個人側への所得税課税

 

が一気に課され、追徴額が数百万円から数千万円規模に達することも想定される。

 

さらに、金融機関からの信用低下、社内秩序の崩壊、家庭不和、相続トラブルへと、経営全体に深刻なダメージを及ぼすこともある。

経営者が取るべき現実的な対応策

経営者がプライベートな関係にある人物を会社で雇用する場合、次の点を徹底すべきであるという。

 

●業務内容を明確化する

●勤務実態を客観的に記録する

●給与水準を一般社員・同業他社と比較し、合理的範囲に抑える

●不明瞭な名目の手当を支給しない

 

それでもなお、「愛人」という関係性そのものが、常に税務リスクとして注視される点は変わらないだろう。

「バレなければいい」という発想は、もはや通用しない

近年の税務調査は、データ分析、金融機関連携、情報突合、内部通報制度の高度化により、発見精度が飛躍的に高まっている。

 

「今まで問題にならなかった」

「うちは規模が小さいから狙われない」

 

こうした認識は、もはや幻想に過ぎないと考えておくべきだろう。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

 

 

 \2月7日(土)-8日(日)限定配信/
 調査官は重加算税をかけたがる 
相続税の「税務調査」の実態と対処法

 

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