(※写真はイメージです/PIXTA)

「独身税」という言葉が、メディアやSNSを通じて急速に広まっている。正式な制度名ではないにもかかわらず、この表現が強い関心を集めているのは、物価高や社会保険料の上昇が続くなかで、将来不安と負担感が限界に近づいている日本社会の現実があるためだ。いわゆる「独身税」とは何なのか。その実態を制度面から整理し、日本の負担構造が抱える課題を考える。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

「独身税」という言葉が拡散する理由

「独身税」という刺激的な言葉が報道やSNSで繰り返し用いられるようになったのは、少子化対策の名の下で、独身者に新たな負担が課されるのではないかという不安や反発が広がっているためだろう。こうした感情が、この言葉を象徴的なフレーズとして社会に拡散させている。

 

その受け止め方を強めている要因の1つが、生活コストの上昇だろう。食料品やエネルギー価格の高止まりに加え、社会保険料の負担増が家計を圧迫するなか、「新たな負担」という情報は、実際の金額以上に強い心理的影響を及ぼしやすい。制度の詳細が十分に共有されないまま、「独身者が狙い撃ちされる」という印象だけが先行しているのが現状だ。

実態は「新税」にあらず…子ども・子育て支援金制度とは

しかし、いわゆる「独身税」と呼ばれているものの実態は、2026年度から段階的に導入される、医療保険制度に組み込まれた「子ども・子育て支援金制度」だ。税法に基づく新税が創設されるわけではなく、社会保険制度の枠組みのなかで負担を求める仕組みとなっている。

 

この制度は、少子化対策の安定財源を確保することを目的としており、保育サービスの拡充や育児支援策の強化などに充てられるとされている。負担は、独身・既婚を問わず、医療保険に加入するすべての人が対象となる設計であり、制度上、独身者のみを対象としたものではない。

子ども・子育て支援金制度は「新たな負担」なのか

子ども・子育て支援金制度は、法律上は新税ではない。あくまで医療保険制度に組み込まれた社会保険料の一部として徴収されるものであり、税法上の「課税」とは区別されている。

 

しかし、家計の視点から見れば、実質的には新たな負担であると言わざるを得ない。給与や年金などから強制的に徴収され、可処分所得を直接押し下げる点で、負担の実感は税とほとんど変わらないからだ。

 

さらに、この制度は、これまで医療給付を主目的としてきた医療保険制度に、少子化対策という新たな政策目的を加えるものだ。従来存在しなかった目的の拠出金が新設される以上、制度全体としては負担増と評価するのが自然なことだろう。

 

「新税ではない」ことと、「新たな負担ではない」ことは同義ではない。制度の形式と、国民が感じる負担の実態には明確な差がある。

なぜ「税」のように受け止められるのか

この制度が「独身税」あるいは「実質増税」と受け止められるのは、社会保険料が持つ性質によるところが大きい。社会保険料は、税と同様に強制的に徴収され、用途が個々人に直接紐づくわけではない。そのため、負担する側から見れば、実質的な違いを感じにくい。

 

加えて、制度説明が「税ではない」という形式論に偏りがちな点も、不信感を助長している。負担が増えるという事実よりも、法的区分の説明が先行すれば、「説明がすり替えられているのではないか」という疑念を招きやすい。

制度説明と国民感情のかい離

日本では、制度の法的な位置づけと、国民の受け止め方との間に隔たりが生じやすい。とりわけ社会保険制度は、目的別の負担が積み重なり、全体像が見えにくい構造となっている。

 

この点について、国際課税研究所首席研究員の矢内一好氏は、日米の制度比較を踏まえながら、日本特有の課題を指摘する。

 

矢内氏によれば、アメリカの所得税では夫婦合算申告に適用される税率区分が、独身者よりも明確に有利に設計されているという。これは独身者の税率が相対的に高いという点で、日本で語られる「独身税」論争と似た構図を持つが、アメリカではこれが純粋に税制の問題として整理されている点が異なるという。

 

矢内氏は「アメリカで夫婦合算申告が導入された背景には、州ごとに夫婦財産制が異なるという事情があります。夫婦別産制を採る州と、夫婦共有制を採る州が混在するなかで、全国一律の課税ルールを整えるため、結果として夫婦合算が最も有利な制度として設計されたのです」と話す。

 

その結果、相対的に不利な立場に置かれたのが独身者であるが、矢内氏は「アメリカでは、この点が『独身税』として社会問題化することはほとんどない」と指摘する。

 

その理由の1つが、社会保険料の位置づけである。

 

「アメリカでは、社会保障関連の負担は税として明確に位置づけられており、内国歳入庁(IRS)が徴収を担っています。税と社会保険料が制度上も徴収主体の面でも一体化しているため、国民にとって負担の性格が分かりやすいのです」(矢内氏)

 

これに対し日本では、税と社会保険料が制度上も行政上も分断されている。税は国税庁、社会保険料は年金機構や保険者が所管し、いずれも強制的に徴収されるにもかかわらず、その性格の違いが必ずしも明確に整理されていない。

 

「社会保険料が実質的に税に近い負担であるにもかかわらず、その説明があいまいなまま制度が積み重なってきました。その結果として、『これは税なのか、保険料なのか』という疑問が常に残り、不信感が生じやすい構造になっているのです」(矢内氏)

問われているのは「負担の有無」ではなく「説明の誠実さ」

子ども・子育て支援金制度は、形式上は新税ではないが、実質的には新たな負担である。その点をあいまいにしたままでは、国民の理解は得られない。

 

「独身税」論争が示しているのは、制度の是非以上に、負担をどう説明し、どう納得を得るかという問題である。少子化対策という重要な政策だからこそ、負担の事実を正面から示し、その意味を社会全体で共有する姿勢が求められている。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

 

 

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